全米OPが10年間で最高の視聴率 リブゴルフの不人気に学び生まれ変わったデシャンボーがゴルフ界の救世主に?
PIFとの統合に向けた交渉は「進んでいる」と言うのみ
開幕に先駆け、モナハン会長は米メディアと向き合ったが、懸案のPIFとの統合に向けた交渉は「進んでいる」と言うに留め、具体的な内容などは一切明かされなかった。 ビジネス交渉の中身を公開しながら進めることはできないというモナハン会長の言い分は頷ける。だが、昨年6月の発表がそうだったように、水面下の隠密行動ばかりが続けば、そこに参加できない人々は「蚊帳の外」「部外者」と感じ、心が離れていく。 昨年6月の際は、PGAツアー選手たちが疎外感を抱いて激怒し、その後は選手たちが主体となって交渉を進める体制になった。 だが、今度はウッズやスピースといった選手理事たちが「自分たちのツアー」を自分たちで維持しようとするあまり、肝心のスポンサーやファンを疎外する形に陥っている。昨今、PGAツアーのTV中継の視聴率が軒並みダウンしている一因は、そこにある。 せっかく破格の賞金を用意し、シグネチャーイベントなる特別大会をシリーズ化しても、ファンや周囲との間に線を引いてしまう姿勢が伝わってくれば、親しみを覚えなくなるのは自然の流れなのではないだろうか。
「どうしたらファンを増やせるだろうかと考えた」
もちろんPGAツアーも必死の努力を続け、試行錯誤もしている。20年にはPGAツアー・ユニバーシティーなる制度を創設。大学ゴルフの上位選手25名が大学卒業後にPGAツアーやコーン・フェリーツアー、PGAツアー・アメリカスへダイレクトに移行できる道筋を作った。 昨年からはDPワールドツアーのポイントランキングのトップ10がPGAツアーへ昇格できる道筋も作られた。 つい最近では、世界アマチュアランキングのトップ20に翌年のDPワールドツアー出場資格を授けるグローバル・アマチュア・パスウェイ(GAP)も創設された。 将来有望な若い選手を早い時期から「確保」して育てようという意気込みが伝わってくる。それはそれで、きわめて大切で必要な行動だが、ツアーを盛り上げる上で一番大事なのは、選手一人ひとりの意識と姿勢だ。 ファンもスポンサーも大会関係者もメディアも「みんな仲間」と考え、トロフィーの感触さえ共有する行動に出たデシャンボーの姿勢は、リブゴルフの他の選手にも、低迷が表面化し始めているPGAツアーの選手にも、最も求められるべき姿だ。 特筆すべきは、デシャンボー自身が、以前はそういう姿勢ではなく、むしろ我が道だけを歩いていたという点である。 「リブゴルフに行って、ギャラリーがなかなか増えず、TV視聴率も上がらない様子をこの目で見て、どうしたらファンを増やせるだろうかと考えた」 SNSを多用し、自身が登場するユーチューブ動画を流し、打てば響くようなリアクションを得て「人々との触れ合いの大切さと力を初めて知った」とデシャンボーは言った。「だから僕は変わったんだ」。 その変化こそは、今、世界のゴルフ界が必要としている変化なのではないだろうか。 文・舩越園子 ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
舩越園子(ゴルフジャーナリスト)