初先発で存在感示した流大、サンゴリアス今季初勝利へ「ゲームナレッジ高めたい」
無形の力に期待した。 東京サントリーサンゴリアスの小野晃征新ヘッドコーチは、1月4日、国内リーグワン第3節でひとつの手を打った。攻めの起点である先発SHに、今季初めて流大を起用した。 旧トップリーグ時代から中断期間を除いて7シーズン連続で4強入りも、今季は開幕2連敗。初白星を得るべく、現役時代に司令塔団を組んだ身長166センチ、体重75キロの32歳を配したのだ。 これまで同じ位置でスターターを務めてきた移籍1年目の福田健太はリザーブに回った。指揮官は説く。 「非常に高いレベルのSHがいる中、(それまでと)違う選択として先に流を、フィニッシャーに福田を…」 当の流は「80分をかけて勝つ土台を作ることを、意識してやりました」。会場の味の素スタジアムで、自らの価値を示した。多彩な選択肢で、こちらも今季未勝利というトヨタヴェルブリッツの急所を突いた。 テンポよくパスをさばきながら、「常に裏のスペースを狙うのは僕の強み」と敵陣の深い位置へキックを転がすこと数回。首尾よく陣地を稼いだ。 イエローカードによる数的不利を強いられていた前半26分には、熟練の手さばきで1点ビハインドから一時的に勝ち越せた。 敵陣22メートル線付近で、相次いで力強い走者に繋ぐ。クラッシュさせる。向こうの防御に隙間ができたと見るや、接点の上の球を持ち出して仕掛ける。その隣に走り込んできた、HOの堀越康介に放る。勢いづける。 最後はSOの高本幹也のトライとコンバージョンで、14-8とした。 今回2度のフィニッシュで光ったWTBの尾崎晟也は、3学年上のパッサーについてこう語った。 「大さんのコントロールのうまさは、コミュニケーションにある。FWへの『ここは、こうだ』というような小さな声掛けを毎プレーしています」 この日のサンゴリアスは、総じて攻撃のバリエーションが豊かに映った。布陣と各人の仕掛け方が様変わりしたか。その背景には確たる準備があったと、流は話す。 「過去2試合を受け、ディスカッションを。選手からの本音の意見と、コーチ陣からの正直なフィードバックがあって、よりお互いがよくなろうという1週間を過ごしました。詳しくは言えないですけど、システムも少し変えて…」 年末からの微修正を年始の喜びに変えるべく、後半31分に退くまで奮闘した。しかし、30-30で引き分けた。リードしていた時間帯にもいくつかチャンスを逃していて、終盤には守りのエラーで失点していた。 「淡泊に得点されることがあった。そうなると、相手にはフィジカルの強い選手もいるので乗ってくる。フェーズが重なってからのディフェンスはほとんど問題なかったので、一発で獲られてしまうことだけをなくせれば。スペースにアタックできて、トライも獲れている。コーチの提示したプランが間違っていなかったという自信もある。ただ、ゲームの綾(を掴むかどうか)、ソフトな時間帯(が起こる)…といったところで、勝ちを逃しています。ゲームナレッジ、経験を、チーム全体で磨いていかないと。ずっと年長者がグラウンド内にいるわけではないし、そういう選手がいなくても判断できるようにならないと今後も勝っていけない。そういった会話も、今後、増やしていきたいです」 入部2年目の2016年に主将となってから、2季続けて日本一に輝いた。日本代表としても、昨秋までに2度のワールドカップを経験。サンゴリアス、ジャパン、さらには出身の帝京大でも先輩だったCTBの中村亮土らとともに、成功体験を積んできた。 渦中、圧力下で「ゲームの綾」を察知し、手繰り寄せる術を身体化してきた。 大学の後輩にあたる尾崎晟也は付け足す。 「流れをわかっている選手の判断は大事。それ以外の選手についても、反則を重ねてはいけない時間帯についてなどのゲームナレッジをチームとして高めなくては。練習をよりリアル(本番)に近づけ、緊張感を持ってやらないといけないです。大さん、亮土さんがコントロールしてくれる部分があり、2人がいる時といない時の差はあると感じています。いまは若い選手も出てきているので、同じ絵をチームで共有し、ゲームの綾(への感度)を高めていきたいです」 熟練者の経験知を周りの有望株にどう伝え広めるか。繊細なチャレンジが課される中、流は足元を見つめる。 「シーズンは長いです。ここから全部、勝てばいい。ただ、自分たちに問題があるのも事実。周りに言い訳をせず、自分たちに目を向ける。(拠点の)府中でやっていることしかゲームには出ないので、グラウンド、クラブハウスで、自分たちが強くなるためにどうしたらいいかを考えながらやるためのオーガナイズを、僕自身もしないといけないです」 12日には東京・秩父宮ラグビー場で、一昨季王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイと第4節をおこなう。 「グラウンド内ではハードワークしています。何か大きく変えようとするとうまくいかなくなる。ちょっとしたきっかけでチームが変わる。そのきっかけを、早く見つけたいです」 (文:向 風見也)