【長野ハルさんを悼む】選手を尊重…試合前のうなぎ恒例だった
◇長野ハルさん死去 17年の初夏、帝拳ジムでのあるシーンが忘れられない。鏡に向かい、シャドーボクシングをしていた選手の元に長野さんがスタスタと近づいていった。「それじゃダメよ」。正しい姿勢を指導されていたのは、元WBC世界スーパーフェザー級王者の三浦隆司。92歳の長野さんが現役の世界王者経験者に基本の見直しを命じる姿に驚かされ、ボクシングに人生をささげてきた凄みに、熱気漂うジムの中でも震えを感じた。 ボクサーを尊重し、練習に集中できるように気を配り、小さな変化も見逃さなかった。試合前は栄養をつけなさいとうなぎを渡すのが恒例で、移籍してきた選手が「これが楽しみだったんです」と目を輝かせていた。一方で命の危険がある競技だからこそ厳格な姿勢を崩さず、表彰されたときはリングに上がることを固辞した。記者にも厳しく門前払いも食らったが、熱心に通うと取材中にこっそりお菓子を渡してくれ、うなぎもごちそうになった。長野さんは白焼きを好んでいた。 昨年11月、電話がかかってきた。以前の取材のお礼とともに「また来てくださいね」と普段より優しい言葉をかけられた。その後はジムに姿を見せなくなり、再会はできなかった。担当を離れた記者にも年賀状を欠かさなかった長野さんが、最後に声をかけてくれたのだと解釈している。(97~99年、16~18年、22~23年ボクシング担当・中出 健太郎)