高級スーツを作るなら、職人も「高給」にしないと 精巧な技術を持った会社を、未来につなぐために
◆職人の技術の承継と若手の育成が課題
――コロナ禍ではマスクを作ることで職人を動かし続けていたということですが、職人の高い技術を身につけるには、どれくらいのキャリアが必要なのでしょうか。 現在、職人は10名ですが、いわゆる縫製師のベテランはほぼリタイアしていて、現在は20代から40代が中心です。 こうした世代構成になる以前は、若い世代への代替わりが一番大きな課題でした。 私が入社した当時の職人は60代後半が多かったのですが、彼らがずっと仕事をし続けられるわけではないので、若手をどんどん増やしていく方針にしました。 ただ、技術の習得に時間がかかります。 技術を教えた後に辞めてしまう人もいる。 これはどの業界にも言えることだと思いますが、せっかく技術を覚えても離職されてしまうとどうしようもない。 まずは離職をいかに防ぐかという対策を始めました。 それには何よりもまず、給与が重要です。 職人の給料は安かったのがそれまでの業界の常でした。 しかし、技術を覚えてある程度のレベルにまで到達するには時間がかかります。 薄給の期間が長いと、将来への不安が出てしまうので、見通しを立てられるようにポイント制を導入しました。 ある一定の期間で規定以上の仕事をクリアするとポイントが付与され、インセンティブがつく、というような感じですね。 また、代表に就任する前の専務取締役時代から人事を任されていたので、半年に一度、全社員と面談をして、各自に振り返りや目標を聞く機会を設けています。 既に10年ほど続いていますが、きめ細かなキャリアアップシステムの仕組みをつくり、職人の離職を防ぐように努力しています。 ――社内の環境や雰囲気はとても良いのでは? 社員が実際にどう思っているのかはわかりませんが、「何も言えない」という関係性は良くないので、できるだけ話を聞くようにしています。 職人も、面談という機会がある方が、身近な上司には話せないことを話してくれたりします。 職人の離職は、テーラー業界全体の課題です。 経済的な事情でテーラーになることを諦め、安定を理由に大手の修理店に行ってしまう人もいる。 でも、銀座テーラーならば、いい仕事をすればきちんと稼げる、夢のある仕事だと思ってもらえるようにしたい。 職人がいるからこそ成り立つビスポークの世界なので、職人が次世代にも続いていくような仕組みづくりを目指しています。 弊社での取り組みが業界全体の底上げにつながっていくことを期待しています。
■プロフィール
株式会社銀座テーラーグループ 代表取締役社長 小倉 祥子 氏 1978年、東京都生まれ。青山学院女子短期大学家政学科を卒業。幼い頃から音楽に親しみ、1999年英国王立音楽大学にピアノ留学。一度帰国したのち、マーケティングを学ぶためにアメリカの大学に2年半留学、2007年に帰国。2008年、家業である銀座テーラーに入社。社長室室長、専務取締役などを経て、2019年に代表取締役に就任。