2024年『紅白』に感じた熱気、そして静謐さ B'z、星野源らのパフォーマンスが示したもの
75回目を迎えた『NHK紅白歌合戦』(以下『紅白』)。 例年以上に熱のこもった『紅白』だった。それが力みのようなかたちで出た場面もなくはなかったように見受けられたが、全体を通しては歌と演出の力で視聴者になにかを伝えようという熱気が終始感じられた。 【写真】『紅白』初出場でサプライズ演出披露したB'zの近影 それがひとつのピークに達したのは、B'zのステージだっただろう。別のスタジオからの2024年度後期連続テレビ小説『おむすび』主題歌「イルミネーション」1曲で終わりかと思いきや、そのまま2人はNHKホールに登場して、おなじみの「LOVE PHANTOM」「ultra soul」を披露。一瞬で盛り上がるライブ会場と化したNHKホールだけでなく、SNSの反応も際立っていた。 かつて松任谷由実でも似た演出があったが、今回もサプライズ登場の演出効果は抜群だった。ほかにも、最後を飾った福山雅治とMISIAそれぞれ力の入った歌唱、能登の復興への思いを託した石川さゆりの「能登半島」、平和への深い祈りを込めた玉置浩二の「悲しみにさよなら」、一瞬で自分の世界に引き込んだVaundyの「踊り子」、さらにはtuki.の「晩餐歌」やNumber_iの「GOAT」ら初出場組など、印象的なパフォーマンスは多かった。 一方、そうしたなかで静謐とでも形容したくなるようなパフォーマンスもあった。 ニューヨークからの中継で「満ちてゆく」を歌った藤井 風もそうだったが、もうひとり星野源にはとりわけそれが感じられた。星野に関しては、今回『紅白』の長い歴史のなかでも記憶にないような出来事があった。一度発表された曲目の変更である。 今回で連続10回目の出場となった星野源は、いまや『紅白』を代表する顔のひとりである。その星野が歌う楽曲が「地獄でなぜ悪い」から「ばらばら」に直前で変更された。前者は同名映画の主題歌として2013年にリリースされたもの。だが同作の監督について報じられた性加害疑惑を理由にSNSなどで強い批判の声が上がった。それを受けての曲目の変更だった。 「地獄でなぜ悪い」は、NHKの演出側からの熱心なオファーだったことを星野は明かしている。『紅白』では出場歌手の選考基準として「今年の活躍」「世論の支持」とともに「番組の企画・演出」があるが、この場合の選曲もその面からのオファーだったことがうかがえる。「地獄でなぜ悪い」は、かつて星野が大病を患って活動休止中にリリースされた。それが、現在さまざまなことに苦しむ人々への前向きなメッセージになると番組サイドは考えたのである。しかし、それは叶わなかった。 こうした「番組の企画・演出」の重視は、近年における特別企画による出場の多さとしても現れている。 今回で言えば、B'z、氷川きよし、米津玄師、玉置浩二といったところがそうだ。米津もB'zと同様、朝ドラの主題歌を披露。2024年度前期放送『虎に翼』にしばしば登場した大階段のセットをバックに、伊藤沙莉らドラマのキャストとの息の合ったコラボで「さよーならまたいつか!」を歌った。それは、映えるという言葉がぴったりなステージだった。 「番組の企画・演出」重視には、サプライズ重視という側面もある。B'zだけでなく、ファンの家庭をサプライズで訪れ、その場で歌った純烈もそうだった。 そこには、『紅白』にとって逃れられない宿命とも言える視聴率のこともあるだろう。いまやテレビ番組の評価基準として、世帯視聴率の比重は下がっている。だが『紅白』が過去に80%超という驚異的な世帯視聴率をあげたがゆえに、いまだにそのことが話題の中心になってしまう。 特に今回は、一昨年の平均世帯視聴率が後半となる第二部31.9%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と史上最低を記録したこともあり、より広い世代を意識した1970年代から90年代のヒット曲がかなり歌われた。GLAY、南こうせつ、イルカ、THE ALFEE、高橋真梨子といったアーティストが久しぶりに出場し、それぞれ代表曲を披露。また西田敏行の追悼企画で歌われた「もしもピアノが弾けたなら」も趣旨は異なるが、広い意味ではそれに入るかもしれない。 これらの歌は、かつて「一億総中流」と呼ばれた日本社会の一体感、かつて『紅白』もその一翼を担った一体感の記憶を呼び起こすようなものだ。とはいえ、令和を迎え、時代が大きく変わりつつあるのも多くの人が実感していることだろう。