2025年の「日本人の暮らし」は、24年より悪くなる…「物価と賃金の悪循環」が日本経済を破綻させる「恐ろしい事態」に!
物価が上がれば、消費支出が減る
仮に実質賃金の上昇率がプラスになったとしても、それで良いわけではない。なぜなら、賃上げの恩恵に浴すことのできない人がいるからだ。 第一は年金生活者だ。日本の公的年金には物価スライドがあるが、「マクロ経済スライド」という制度によって、年金が減額される。また、フリーランサーなど、制度的な賃上げの恩恵を受けることができない人々がいる。こうした人たちは、物価上昇の負担だけを負うことになり、生活が苦しくなる。 そして、賃上げの対象者も含めて、人々は決して物価上昇を受け入れているわけではない。物価が上がるので、支出を控えている。これは、GDP統計で実質家計消費支出が増えないことに、はっきりと現れている。 実質家計最終消費支出の対前年同期比は、2023年7-9月期から24年4-6月期まで、4四半期連続でマイナスとなった。24年4-6月期の値は、23年1-3月期より3%少ない。22年にはコロナによる落ち込みからの回復が顕著だったのだが、ここにきて、それが頓挫してしまったのだ。 23年7-9月期は、23年春闘による賃金上昇の効果が顕在化し始めたはずの時点だ。だから、本来なら、消費支出が増加して然るべきだ。それにもかかわらず、全く逆の現象が起きたのは、物価上昇の影響がいかに大きかったかを示している(もっとも、このときの物価上昇は、輸入価格の上昇によって生じていたのであるが)。
2025年の最大の課題は?
賃金の引き上げが売上価格に添加されて物価を引き上げると、人々の暮らしが困窮する。そのため、さらに賃上げが要求される。つまり、物価と賃金の悪循環が発生する。これは経済を破綻させる極めて恐ろしい現象だ。 だから、賃金と物価の悪循環から脱出することが、どうしても必要だ。そして、そのためには、転嫁による賃上げではなく、労働生産性の引き上げによって賃金を上昇させる必要がある。 石破茂首相は、実質賃金の引き上げを実現すると公約しており、10月4日に行なった所信表明演説で、「一人一人の生産性を上げ、付加価値を上げ、所得を上げ、物価上昇を上回る賃金の増加を実現してまいります」と述べた。 確かにそのとおりである。この言葉どおりに生産性上昇を実現できるかどうかが、2025年の日本経済に課された最大の課題だ。
野口 悠紀雄(一橋大学名誉教授)