ロッキード事件の闇が晴れない日本政治の不幸(下)米の虎の尾を踏んだ?
相次いだ週刊誌やテレビ報道で「真相は闇の中」
『週刊朝日』は「虎の尾を踏んだ」を立証しようとアメリカの公文書を検証し、田中がキシンジャーを始め多くの米政府関係者から警戒され、嫌われていたことを立証している。しかしだからと言って田中を潰すためにロッキード事件が仕組まれたことの証明にはならない。むしろ田中はアメリカにとって戦後初めて最もタフな相手であったことを立証したのである。 『週刊新潮』は「ロッキード事件の発火点」としてフランク・チャーチに注目する。しかし本人は亡くなっているので、彼のスタッフに取材しているが、記事はトライスターに絡んで田中が逮捕された検察の発表を前提にしているため新たな事実はない。 NHKの番組は事件の核心が民間機トライスターではなくP3CとE2Cという軍用機の売り込み工作だったことを発掘している。番組は検察の資料によって作られているので、検察も「トライスターで田中逮捕」の構図をいつまでも続けるわけにはいかなくなった事情があるのだろう。 そうなると田中逮捕は何だったのかという話になる。最高裁は、田中の死後に司法取引で得られたロッキード社幹部の証言を証拠として採用しないと判断した。 田中逮捕の決め手が否定されたことになり、田中は不当に逮捕されたことになる。また事件の核心が民間航空機ではなく軍用機となれば、しかもP3Cとグラマン事件で取り沙汰されたE2Cが同時に売り込まれたのなら岸、中曽根、福田、松野の名前が出るはずだが、NHKはここでも田中の名前しか出さない。「死人に口なし」ではないが、すべての疑惑を田中に負わせ、真相は闇だと言って終わるのである。 『週刊朝日』には、「アメリカから闇資金を受けた政治家はみなアメリカに弱みを握られ、中には総理に上り詰めた人物も複数いて、暴露におびえて自死を選んだ政治家もいる」と書いているが、しかし名前は明示されない。やはり事件は闇の中なのだ。おそらく日米安保体制の根幹にかかわるからだろう。