「かっこいい!」が知識を吸収する原動力に、異色の「バトル図鑑」が売れた理由
夏休みといえば、読書感想文は宿題の定番だ。近年は『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)など動物本がヒットしていたが、最近の書店の児童書売り場では、「バトル図鑑」が大人気。特に、この分野の先駆けとなる「最強王図鑑」シリーズ(学研プラス)は低学年以下の子どもたちにも支持され、2015年5月の『動物最強王図鑑』以来、シリーズ累計150万部を誇るべストセラーに。人気の理由はどこにあるのだろうか。(取材・文:相馬留美/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
ありえない戦いを徹底的にシミュレーションする
「最強王」は、対戦トーナメント方式で様々な生き物の最強を決めるという、ストーリー仕立ての「図鑑」になっている。初めの見開きで対戦する2体を詳細に説明する部分は図鑑的だが、次の見開きではそれぞれの特性を生かした戦いが展開され、3コマでバトルが完結するレイアウトである。
類書には、累計220万部となる『どっちが強い!?』シリーズ(KADOKAWA、2016年11月より刊行)があり、今月発売予定の最新刊『どっちが強い!? もっと動物オリンピック編』でシリーズ27作目となる。角川まんが学習シリーズ「日本の歴史」の次となる新規シリーズを探していたところ、KADOKAWAグループに参入したマレーシアの出版社・KADOKAWA GEMPAK STARZの数あるコンテンツから選んで最初に刊行したのが、「どっちが強い!?」シリーズだった。 こうしたバトル図鑑はどのようにして生まれたのだろうか。 「『どっちが強い!?』は野生生物をテーマにした教育コミックを作りたいと考え、バトルカードゲームからインスピレーションを得て『対決』という形にしました」とKADOKAWA GEMPAK STARZの漫画編集長・スライウムさんは言う。
一方、「最強王図鑑」シリーズを手掛ける学研プラス・コンテンツ戦略室の目黒哲也さんは「トーナメントフォーマット」を目指したという。 「子どもはバトルものが大好き。出てきた瞬間に子どもの心を“つかめる”のはトーナメントだ」(目黒さん)。ヒントを得たのは、目黒さんが子どもの頃に読んだ『猛獣もし戦わば』(著・小原秀雄、廣済堂出版)という本。同書では、ジャングルの奥地でのゴリラとヒョウの戦いをドキュメンタリータッチでレポートしていた。 「有名な剣豪をよみがえらせて柳生十兵衛と戦わせる山田風太郎の『魔界転生』のような作品も大好き」と語る目黒さん。ありえない戦いでも、シミュレーションを尽くして、わかりやすくビジュアルで表現できたら、子どもたちは夢中になって読んでくれるのではないか――最強王はそんな“目黒さんの好きなもの”から始まった。 トーナメントの組み合わせは「厳正な抽選」ではあるが、実際は監修者やスタッフらと議論を重ねてこだわり抜いている。どういう組み合わせにしたら盛り上がるか、決勝がライオンとトラのネコ科同士ではつまらないけれど、ライオンとトラの戦いは見たいからどこかで戦わせたい――そんなことを妄想しながらトーナメント表を作り上げたという。 制作しているときには「よくこんなばかばかしいものを作りますね」と周囲に言われていた。「結局この本は、目黒さんが右手にライオンの人形、左手にトラの人形を持って戦わせて『ライオンが勝った!』というだけの本では?」と突っ込まれ、「最強王図鑑」は親愛の情をこめて「おバカ図鑑」とも呼ばれた。 初版は8000部。作り込んだ図鑑としてはかなり控えめな部数である。しかし、売り上げは順調に伸び、ベストセラーへと成長した。 シリーズは『神話最強王図鑑』が先月末に発売され、全10冊になった。「動物」「恐竜」「昆虫」という王道だけでなく、「絶滅動物」「妖怪」「幻獣」など変わり種や、それらを組み合わせた「異種最強王」も加わっている。