甲子園トライアウトにファン1万2000人の異常人気。ショー化への是非。
トライアウトは選手会の要望によって2001年からスタートした。それまでは各球団によって戦力外通告の時期がバラバラで現役続行を希望する選手がその機会を逃すケースが目立ったため、選手会がNPBと協議して、合同トライアウトの実施と、それ以前に戦力外通告を行わねばならないというルールを定めた。それでも、トライアウトと別の独自入団テストや、秋季キャンプ参加などが各球団ごとに行われるなどしたため、2004年からはトライアウト以前の入団テストを行わないことが申し合わされている(実態としては秋季キャンプ参加などもまだ行われているが)。 つまり、トライアウトの趣旨は、戦力外通告を受けた選手に他球団との再契約機会を均等に与えるもの。近年は、メジャーリーグ、独立リーグ、台湾などのプロ野球関係者、社会人野球、クラブチームなどアマチュア野球の関係者もトライアウトに集まりNPB以外でのプレー続行の機会を得るきっかけにもなっている。 本来トライアウトは引退試合の場ではなく、再就職の場を求める就活の場なのだ。それがショー化して見世物となることが、トライアウトの形骸化につながるのならば、それはそれで問題ではある。 また実績のある選手の場合は、事前に他球団から水面下で“唾”をつけられ、逆にトライアウトに参加することを止められるケースもある。実際、前ヤクルトの田中浩康や、前ソフトバンクの細川亨らはトライアウトに参加せずに、それぞれ横浜DeNA、楽天への移籍話が進んだ。 選手会の森事務局長は、「選手全員からヒアリングしたわけではないが、お客さんがたくさん入ってくれることで、いい意味で緊張感を持って喜んでプレーできているという反応だった。迷惑している、集中できないという声は、そうは出ていない。我々が考えるのは、いかに選手がいい条件、いい環境でプレーして本当の力を見てもらうことができるかどうかという点だけ」という。 トライアウトの開催は、12球団が毎年持ちまわりで、必要経費やサポートするスタッフなどについても、その担当球団が持つことになっている。ちなみに来年の責任球団は、広島。森事務局長の話のように、まだ正式決定はしていないが、草薙に戻すことがなければマツダスタジアムで行われることになるため、甲子園以上に、ファンが集まる可能性があるのかもしれない。 個人的には本気で野球人生の再スタートを狙う選手と、引退記念のつもりで受ける選手が入り混じっているにせよ、トライアウトに多くのファンが関心を寄せ、スタンドが満員になる現象は決して悪くない方向性だと思う。プロスポーツの光と影の影の部分がクローズアップされ、セカンドキャリアの切実な実情も知らされる中、目標を失わず懸命に人生を生きることの素晴らしさに触れる機会であり、見る側にも勇気を与える。名も知らなかった選手のプレーを見ることで野球人気の底上げにもつながるのかもしれない。 真剣に勝負する選手側から、「集中できない」「見世物ではない」などの強いクレームの声が出てこない限り、トライアウトの異常人気はそう悪い現象ではないのではないか。ただ選手会もNPBもトライアウトと平行してセカンドキャリアの問題にも、もっと真剣に取り組まねばならないだろう。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)