「授業料は全員無料」理事長が100億円集めて開いた異色の高専は授業も斬新だった 起業家の育成を目指す「神山まるごと高専」
緑の山に囲まれ川の清流に心が癒やされる自然豊かな徳島県神山町。今年4月、この人口5千人に満たない町に、私立「神山まるごと高専」が誕生した。高専としては19年ぶりの新設校で、コンセプトは「テクノロジーとデザイン、起業家精神を一度に学ぶ」。理事長が企業から集めた100億円を元に人件費などを賄い、授業料は全学生無料。校歌は歌手のUAさんが作詞し、音楽家坂本龍一さんが亡くなる直前に作曲した。斬新な取り組みを次々に打ち出す異色の高専はいったいどんな授業をしているのか。中学3年向けに開かれたサマースクールを取材した。(共同通信=米津柊哉) 【写真】スクリーンに映し出された「作曲 坂本龍一」の文字 坂本龍一さん最後の作曲は校歌 徳島「神山まるごと高専」
▽ものづくりのこつ「アイデアを形にする」 徳島市から車で約1時間、真っ白な校舎が目に入ってきた。町立中学校だった建物を改修した寮兼校舎で、「HOME(ホーム)」と呼ばれている。いかにも学校という外観とは打って変わり、中に入ると真新しい机などが並ぶ洗練された空間が広がる。 8月15~20日に開かれたサマースクールには、男女64人が参加した。最初に取材した授業は「プロトタイプ(試作品)演習」というデザイン関係の授業だ。机の上にはアルミホイル、テープ、はさみ。「2028年に発売する想定の旅が豊かになるかばんを作ろう」。教員の新井啓太さん(39)が授業のテーマを告げた。 参加者はまずアイデアを三つ考え、うち一つをアルミホイルなどを使って試作を始めた。制限時間はわずか15分。新井さんは次のように狙いを語った。「制限がある中で創造性は生み出される。アイデアを言葉やイラストではなく、立体にすると人に届けられる量が変わる。質より量で何回もバージョンアップしていく」。説明を聞いているだけだった記者も、ものづくりのこつに触れた思いがした。
▽ルールに従わない体育「新しいスポーツをつくろう」 神山まるごと高専は「モノをつくる力で、コトを起こす人」の育成を掲げており、ものづくりが授業の中心だ。具体的にはテクノロジー(情報技術)、デザイン、起業家精神といった三つを「まるごと」学んでいく。国語や社会といった一般的な科目でもこの方針に沿った授業が展開される。 次の授業は保健体育。HOMEを後にし、近くの鮎喰川の橋を渡って5分ほど歩き、新設した木造平屋の校舎「OFFICE(オフィス)」に着いた。地元の「神山杉」をふんだんに使った木材のかぐわしい匂いの中、授業が始まった。担当するのは教員の鈴木佑奈さん(35)だ。 「体育の概念を捨ててもらいたい」。鈴木さんは中学生を前に授業の冒頭こう呼びかけた。いったい、どういうことか。既存のスポーツをルールに基づいて行うのではなく、新しいスポーツとそのルールを自分たちでつくってほしいと説明。この日のテーマは「(リーダーを支える)フォロワーシップを高める鬼ごっこ」だった。