パリ五輪代表入りを懸けてアピールを続ける小川智大（写真は今年5月の親善試合オランダ戦） photograph by Getty Images

「オレならできる」 　6月5日に行われたネーションズリーグ・ドイツ戦の第5セット前、他の選手たちの輪から少し離れ、日本代表のリベロ・山本智大は1人、頭の中でそう繰り返し、必死に自信を取り戻そうとしていた。第4セットまでのことは一旦忘れて、立て直す。笛が鳴ると意を決して真っ先にコートに駆け込んだ。 【画像】石川＆藍も合流して…みんなで何のポーズ？ 豪華なかよし集合写真を見る！「リベロ小川智大の華麗なトス」「観客席まで追っちゃう山本智大」「まるで“アイドル”な声援にニンマリ藍さん」男子バレーVNL全写真（100枚超） 　第4セットまでは、アグレッシブで自信に満ちたいつもの山本ではない場面も見られた。選手間を狙ってくるドイツの精度の高いサーブにエースを奪われたり、“世界一”と称されるディグでもミスがあり、「僕の人生の中で結構悪い試合。こういうしんどい時を乗り越えて成長すると思うので、ポジティブに捉えたい」と試合後振り返った。 　石川祐希と高橋藍が合流してまだ間もなく、昨年できていた連係を取り戻せていなかったことが大きいが、プレッシャーとも無縁ではなかっただろう。 　パリ五輪に向けたポジション争いの過酷さがひしひしと伝わってくる試合だった。

「パリは1人しか連れていけない」

　バレーボール男子日本代表は昨年行われたパリ五輪予選で五輪出場権を獲得した。だが五輪予選やネーションズリーグではベンチ入りメンバーが14人だが、五輪は12人。現在、パリ五輪のメンバー入りに向けた激しいポジション争いが繰り広げられている。 　今年の代表合宿初日、リベロの山本と小川智大は、フィリップ・ブラン監督に呼ばれてこう告げられた。 「本当に2人ともいいものを持っているし、世界でも通用するリベロ。ただオリンピックは12名なので、1人しか連れていけない」 　それは2人とも覚悟していたこと。ただ、ネーションズリーグで交互に起用される中、1試合ごとにその言葉は重みを増す。前日のイラン戦で小川が見せた高いパフォーマンスも、もしかすると山本に影響していたかもしれない。 　この数年、日本代表のリベロと言えば山本と小川の“W智大”だったが、先発の機会は圧倒的に山本が多く、日本の堅いディフェンスの象徴的な存在となっていた。 　しかし今年は「2人を選考するにあたって同じようなプレー機会を与えたい」と、ブラン監督は2人を交互に起用している。6月4日に開幕した予選ラウンド第2週の福岡大会は、初戦のイラン戦で小川を起用した。 　小川の一番の武器はサーブレシーブだ。技術の高さはもちろん、周囲の選手をコントロールしながら相手サーバーと駆け引きする能力にも長けている。研究熱心で、試合前には膨大なデータを頭に叩き込む。相手の癖を見抜く達人でもある。 　日本代表でともにプレーしていた清水邦広が、こう話していたことがある。 「小川にはサーブの癖を見抜かれてしまうんです。『ショートサーブの癖、見抜きましたよ』と言われて、本当に僕がショートサーブを打とうとした瞬間に、『ショート！　』って叫ばれた(苦笑)。ほんの少しの差なんですけど、踏み込みが強い時はショートサーブが多い、というのがバレていました。僕に限らず人の癖を見抜く力が本当にすごくて、サーブやスパイクのコースを瞬時に察して対応する能力は非常に高いです」 　イラン戦では、そのサーブレシーブで安定感を発揮し、ディグでも再三好プレーを見せ、日本のチャンスを生み出した。