アメリカ人フードライターも「日本の魚焼きグリル」を絶賛…日本の「魚」へのこだわりは、世界から見てもスゴかった
独自に発達してきた「魚を焼く技術」
以前、シアトル在住のフードライターのキャスリーン・フリン氏が、日本の魚焼きグリルをいたく気に入り、日本で買って帰るとご本人から聞いたことがある。家庭で魚を焼く技術も、日本では独自に発達していたのである。七輪の時代は焼き網を使い、ガスコンロが普及するとガスコンロで使う製品が開発され、1960年にはコンロに内蔵された魚焼きグリルが登場した。対して、欧米では下部にオーブンが入りトップに4口のガスコンロがあるユニットが、量販店でも売られている。魚焼きグリルつきコンロが一般的な日本と、オーブン付きコンロが一般的な欧米。そこにも文化の違いが見える。 しかし日本も最近は、事情が変わりつつある。パナソニックを筆頭に、各社が売り出している横並び3口または4口のグリルなしコンロが近年、人気が上昇しているそうで、魚はふだん焼かない、という人が珍しくなくなってきている。焼くときは、油を引いてフライパンで、という調理をする人もいる。 日本は肉食が表立って禁じられてきた期間が、1000年を超える。その分、魚介類は重要なタンパク源だっただろう。そして魚を保存する技術も発達した。魚醤も鰹節も干物も塩蔵した鮭やしめ鯖も、より長期間保存する、あるいはより遠くへ運ぶために生まれた技術だった。 だが、多彩な料理を食べる習慣がついた今は、魚介の調理法は衰退期に入っているのかもしれない。昭和30~40年代の全国各地の食文化を紹介する『伝え継ぐ 日本の家庭料理』(農文協)の「魚のおかず」シリーズを眺めると、知らない調理法、食べたことがない調理法がたくさんあることに気づかされる。しかし、この国は、たくさんの文化が衰退しては再評価され新たな装いで流行し復活することをくり返してきた。いつか、「魚焼きグリルなら、油を使わないからヘルシー」、と言い出すインフルエンサーが出てくるかもしれない。
阿古 真理(くらし文化研究所主宰・作家・生活史研究家)