東京都は「黒塗り」、神戸市は「白塗り」…行政が秘匿し続ける公文書“のり弁”問題の理不尽さ
「黒塗り」ならぬ「白塗り」
実施体制・事業計画と題された文書をパラパラとめくっていくと、なんと黒塗りがまったくない。 さすが、神戸市! 情報公開の体制が徹底しているんだなぁと思った次の瞬間、「おやおや」と思う箇所が次々出てきた。 具体的な収支計画をみてみようと、ページをめくっていくと、不自然に白いスペースがめだつことに気づく。本来、数字がビッシリと詰め込まれているはずの表のまん中がポッカリとあいているのだ。 拡大してみると、どうやら数字があった箇所に白い紙を乗せてコピーするようなマスキング処理がなされていることが判明。そう、「黒塗り」ならぬ「白塗り」である(画像2)。 工事着手を2021年度(開業は2024年度)として、その2年前の2019年度から2035年度までの17年間にわたって、事業収支の予測が一覧表にされているのだが、各年度の最終的な数値以外はすべて〝白塗り〞。 人件費や施設・設備管理費、修繕費、水光熱費など、詳細な内訳欄は、きれいに消されていたのである。 数字の入った欄だけを詳しくみていくと、開業から4年目以降は、30億円前後の黒字を確保していることだけはわかるが、その内訳が伏せられていたら、神戸市直営時代の3倍となる入館料が適正なのかどうかは、専門家でも容易には判断がつかないだろう。 ほかのページもみてみたら、マスキングされている箇所は、決して多くはないものの、ここぞという核心部分については、やたらと白いスペースがめだつ。 開示された220ページの提案書の中で白塗りは、たとえ1割に満たないスペースであっても、内容を知りたい市民からすれば、「白塗りだらけ」と感じるはずだ。 試しに白塗り部分を黒く塗りつぶしてみると、〝典型的なのり弁〞資料になった(画像3)。 新しい水族園の建設費用にいくらかかって、その運営維持費にいくらかかるのか。それに対して想定される入館者数は何人で、それによる入館料収入はいくらなのか。 はたまた、周辺に整備した宿泊施設などによる収益はいくらくらい見込めるのか。この提案資料からは、そうした基本的なことを読み取るのは、ほぼ不可能に近い。 そもそも、公文書は「すべて公開」が大原則だ。にもかかわらず、その大原則が崩壊している現実を、目にみえる形で表しているのが「黒塗り」である。 黒塗りで開示された市民は、ひと目で行政プロセスの透明性のなさや、市民に知られると不都合な事実を隠して、ものごとを強引に推し進めようとしているではないのかとの疑念を抱くものだが、その「黒塗り」を「白塗り」に変えることで、そうした批判を和らげようとしているとしたら、これこそ「印象操作」の最たるものではないのか。 入館料の話に戻ろう。開示資料のなかに、3倍前後になる入館料について、各種割引の設定もあった。選定された事業者の提案によれば、市内の小中学生は、年一回のみ、入館料が500円に割引になる(未就学児は無料)制度が用意されている。 これなら市民も文句はないだろうと思われるかもしれないが、よく読めば、ここにもカラクリがあった。 神戸市民限定の入館料割引については、市民は、民間業者が自ら稼ぎ出した利益から捻出すると思っているかもしれないが、実際には、神戸市が、想定される割引対象者層の数に応じて、運営事業者に減収分の一部を支払うスキームになっていた。 事業者の試算では、割引による減収分の46~67%を市が負担するという(割引対象者のうち何人が実際に割引を利用したかによって、市の負担割合が変わる)。割引分の大半は、市が負担してくれるのだから、事業者にとっては、損のない条件といえる。 市民の利便性を向上させつつ、市民の負担を軽くするとされる「官民連携事業」と呼ばれる事業の多くが、実は、民間事業者に破格の優遇措置を与えたり、営利事業に巨額の公費を注ぎ込むために行われたりしているのではと指摘される事例が、ここへきてめだつようになってきた。神戸の須磨水族園の建て替え事業も、決してその例外ではなかったといえるだろう。 なお、2024年6月の開館以後、割引による減収分については、事業者側提案がそのまま適用された。一方で、入館料を季節によって変動させる仕組みが取り入れられた。 これにより、2024年9月時点では、大人(高校生以上)の料金が、通常期間は3100円のところ、最も高いお盆期間には3700円になり、夏休み期間(繁忙期の土日祝含む)も3300円と高くなる一方、12~3月(冬休み・春休み期間を除く)は2900円と安くなるとされている。 ただし、小人(小学生・中学生)・幼児(4~6歳)の料金は、12~3月に100円安くなるだけで、大きな割引はない(通常期間・お盆期間・夏休み期間が1800円であるのに対し、12~3月は1700円)。 文/日向咲嗣 サムネイル/Shutterstock
---------- 日向咲嗣(ひゅうが さくじ) 1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社、編集プロダクションを経て、フリーランスに。雇用保険や年金制度など、主に社会保険分野のビジネス書籍で執筆活動を展開。2018年には、長年取り組んできた失業関連の著作が評価されて、貧困ジャーナリズム賞を受賞。2015年頃からはニュースサイト「ビジネスジャーナル」「週プレNEWS」などでツタヤ図書館問題の連載を開始。数々の地方自治体に情報開示請求を行い、公文書の闇に迫る活動を続けている。 ----------
日向咲嗣