“国境を封鎖せよ”トランプ主義とグローバリズムの現在
中間選挙で移民規制はどうなるか
それでは、下院の過半数の議席を民主党が獲得し、連邦議会が「ねじれ」になった中間選挙の結果を受け、トランプ政権の移民規制にはブレーキがかかるのでしょうか。トランプ政権の特質を考えれば、その見込みは小さいとみられます。 アメリカ国内で移民に対する見方が分かれる中、トランプ大統領にとって移民規制は、実際に効果を上げる以上に、「それに取り組んでいる」こと自体、支持を集める手段として重要になります。その場合、批判を受けることは織り込み済みで、逆に民主党などから批判されればされるほど、共和党などからの支持を集めやすくなります。 もちろん、「ねじれ」になったことで民主党との妥協や調整はこれまでより必要になりますが、民主党との違いが際立つ移民規制で譲歩すれば、トランプ政権にとって自滅につながりかねません。そのため、民主党の方針とギャップが小さい貿易、外交などで折り合いをつけたとしても、トランプ政権が移民規制で譲歩することは考えにくく、むしろ加速しても不思議でないのです。 2014年にイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)が「独立」を宣言し、そこに多くの人々が集まったとき、その大きな背景には、現在の国境線がもたらした宗派の分裂などの不合理や、その国境線に基づく国家で不利に扱われていることへの不満がありました。つまり、IS台頭は既存の国境線を見直そうとするエネルギーだったといえますが、トランプ政権はそれと正反対の、たとえ不合理なものであっても既存の国境線を守ろうとするエネルギーによって突き動かされているといえます。 1989年に東西冷戦が終結した後、ヒト、モノ、カネ、情報が自由に行き交うグローバル化のなか、国家がその流れを妨げることは基本的に否定されてきました。しかし、それによって不利益を被ったと感じる人々を中心に、既存の国境線に基づく国家の一員であることによる優位や利益を確保するため、国家の役割の強化を求める意見は、各国で高まりつつあります。ヨーロッパでシリア難民の受け入れを進める旗頭であったドイツのメルケル首相が、10月の州議会選挙での与党敗北の責任をとって、任期満了の2021年をもって退任すると発表したことは、その典型です。トランプ政権による移民規制は、この時代の変化を象徴するものといえるでしょう。
----------------------------------- ■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文多数。Yahoo!ニュース個人オーサー