“国境を封鎖せよ”トランプ主義とグローバリズムの現在
4年前のイスラム過激派「イスラム国(IS)」の出現は、結果的に、近代史が生んだ国境線という概念のある種の不合理さを突きつけた側面もありました。そして2年前、「アメリカ第一主義」を掲げて大国アメリカの大統領に登りつめたトランプ氏は、国境を“死守する”姿勢を打ち出しています。 【画像】イスラム国で揺らぐ「国家」 近代史を否定する「現代性」 メキシコ国境では壁の建設を訴え、「移民キャラバン」に対しては米軍を派遣して国境の取り締まりを強化。中間選挙はこうした方向性に影響を与えるのか。 国際政治学者の六辻彰二氏に寄稿してもらいました。
◇ 11月6日、アメリカではトランプ大統領に対する信任投票と位置づけられた中間選挙が行われ、上院と下院でそれぞれ共和党と民主党が過半数の議席を獲得する「ねじれ」が生まれました。その直前には中米ホンジュラスから徒歩で北上する数千人の移民の「キャラバン」が注目され、移民対策は中間選挙でも一つの争点になりましたが、移民に厳しい態度を見せ続けてきたトランプ大統領の方針は、「ねじれ」のもとで維持されるのでしょうか。
メキシコ国境に「壁」打ち出す
まず、トランプ政権のこれまでの移民対策を振り返ってみます。 「アメリカ第一主義」を掲げる一方、トランプ大統領には白人至上主義者との結びつきも指摘されてきました。そのトランプ氏は2016年大統領選挙キャンペーンで既に移民に厳しい態度を打ち出していましたが、就任直後の2017年1月25日、公約に沿ってメキシコとの国境に壁を建設する大統領令に署名。中南米からの不法移民対策を強化したのです。 これに続き、トランプ大統領は同年1月27日、「テロ対策」を名目にイランやシリアなどイスラム諸国7か国からアメリカへの入国を制限する大統領令に署名しました。 ただし、2011年にアメリカ軍に殺害されたビン・ラディンの出身国サウジアラビアや、アルカイダの現在の指導者アイマン・ザワヒリ容疑者の出身国エジプトなど、名だたるテロリストを輩出してきた国がリストに含まれなかったことに表れているように、「テロ対策」を掲げるこの入国禁止令は、主に外交的・経済的にアメリカと関係が薄い、あるいは敵対している国だけをやり玉にあげたものでした。 これに対して「憲法で定められた移動の自由を制限する」「才能ある人材がアメリカにこなくなる」などの理由から、各地で抗議デモが発生するなど批判が噴出。このうち、イスラム諸国からの入国禁止令は2017年1月にハワイ連邦地裁によって差し止められましたが、その後トランプ氏は変更を加えた大統領令を相次いで発令し、その度に訴訟となりました。 このうち、2017年9月に出された、とりわけアメリカと敵対的なイスラム圏5か国と北朝鮮を対象とする3度目の入国禁止令は、下級裁判所で違憲判決を受けましたが、2018年6月に連邦最高裁判所が9人の判事のうち5人の保守系判事の賛成でこれを覆し、トランプ政権を支持する判決を下しました。これによって、「テロ対策」による入国禁止はほぼ確定したのです。