無人のフォーミュラマシンが鈴鹿を激走! なぜこんな挑戦をする必要があるのか「A2RL」のCEOに直撃した
「A2RL」の発展のために必要なこととは?
──ところで明日(11月10日)はクビアト選手とAI、つまり人間対AIの戦いをご披露されるということですが、AIのレースに人間が操るクルマが介在すると、また別の難しさが出てくるのでしょうか? ティンパノ:それは人間が居ようと変わりませんよ。むしろ人間がAIに合わせる感じだから、運転するクビアトのほうが大変だと思います。過去にはAIマシンが何をしてくるかわからないので、(混走する)オファーを断ったドライバーもいましたし……。いまは人間のほうが柔軟に対応する時期だということです。 ──私もクビアト選手がAIを相手に走り、苦労しているシーンを映像で見ました ティンパノ:そうですね。人間的な感情をマシンが得るには、まだまだ時間がかかります。しかし、たとえばドローンレースはどうでしょう。自律型ドローンと人間が操るドローンを比べたとき、今日ではすでに自律型ドローンが人間を上まわっています。それはなぜか。高い集中力を保って、非常に狭い環境を素早く飛行する必要があるためです。 スーパーフォーミュラのドライバーでもそうでしょう。人間は数分も競技を続けると、ある時点でミスを犯します。一方で、ドローンの自律型パイロットはミスを犯さず飛び続けます。集中力を求められる領域ではAIの優れた部分が活きる格好です。 ──最後に、A2RLが既存のモータースポーツと同等のスピードで周回し、戦うのはいつごろになると予想されていますか? そうですね……、できるようになるためにはふたつの側面がある思います。ひとつは技術面。これは数年内に到達できると予想します。もうひとつは時間や投資の問題だと思いますが、それはあまり心配していません。チームやAIの専門家たちが高い興味を示してくれているのがポジティブですし、レーシングドライバーが危険にさらされるリスクがないという点も、既存のモータースポーツと異なる魅力になるのではと思っています。 けれども重要なのは、一般の人々の関心を集めることです。より魅力あるレースシーンを作り、どうやってファンを楽しませるか。そして、アブダビや今回の鈴鹿でやったようなフォーマットもそうですし、ほかにもファンに喜んでもらえるフォーマットが何か模索しています。VRのような新しい領域もやっていきますので、注目していてください! ──ありがとうございました。 このインタビューの翌日、11月10日には「人間対AI」のデモレースが実施された。残念ながらAIマシンのYallaはコースインして約半周したところで、スピンクラッシュしてしまい即座に中止されてしまった。人間でもやりがちだが、恐らく冷えたレーシングスリックが温まりきらぬまま、ヘアピン立ち上がりのアクセルオンでパワースライドしたものと思われる。 しかし、このスピンは決してネガティブなものではないと考える。なぜなら、AIは失敗を学ぶからだ。開発ベースのアブダビは1年を通して暖かい。一方でここ鈴鹿の気温はデモンストレーション走行時は13度、路面温度は19度程度と場内アナウンスされていた。このような気象条件下での走行データが圧倒的に不足しているのだろう。 だからこそ、A2RLは鈴鹿で1か月以上も前から計70時間にも及ぶテストをすることで、アブダビとは異なる気象条件下での走行経験をAIに学ばせ、自律運転技術の進化を一層進めたかったのだろう。 きっと次に我々の目の前を走ることがあれば、子供の成長を見守るかのように「あの時は転んでばかりだったのにね」と、今日のスピンを懐かしく感じるほど進化した走りを見せてくれるはずだ。 日本が世界に誇る最速ワンメイクマシン「SF23」が、自律走行の分野で世界を牽引しようとしているASPIREの活動により、未来を創り出そうとしている姿に胸が熱くなる思いだった。
斎藤 充生