大橋未歩「自分の代わりはいる。それが健全な組織」脳梗塞になって気づいた一番大切なこと
今後の人生で一番大事なのは「心の安定」
――仕事を休んでいた期間の心境は? 大橋未歩: 合計8カ月休職していました。ごう慢にも「自分の代わりはいない」と思うことが責任感だと思っていたんですが、代わりはいましたし、代わりがいることこそが健全な組織だということを学ばせていただきました。当時はいろんな番組を任せていただいていたので、必要とされている存在だと思っていました。でもほかの方が代わりをしてくれて、視聴率も落ちることなく番組も会社もうまく回っていました。それで大事なことに気づかされました。 それまでは目標を設定して努力すればある程度、自分の思い通りにコントロールできるって思ってたんです。労働することで自分の存在価値を見い出していたんでしょうね。働けない自分を卑下することもありました。でも、それは間違いでしたね。 ――立ち直るきっかけは? 大橋未歩: 実家の兵庫県で療養していたとき、近くの山を父と一緒に散歩しました。3月くらいで、梅や桜のつぼみがけっこうあったんです。それを見て「きれいな花を咲かせる前には、つぼみの時期があるんだな」って思えることができて、なんだか救われました。循環て大事なんだなと思いましたね。人間も自然の一部ですから、常に花を咲かせているわけじゃない。「落葉して、それが養分になって、秋冬を越すからこそ、春にきれいな花を咲かせるんだ」と思ったら、働いていない自分も許せるようになりました。 働いていないと「自分の努力が足りない」と責めちゃうこともあるんですが、頑張っていたら倒れることもあります。少し成功体験が出来てくると、なんでも自分でコントロールできる気がするけれど、それはごう慢なこと。流れに身を任せることが大事ではないでしょうか。いま目の前にある世界を楽しむというか、目の前のことだけを考えればいいんじゃないかなと思います。 ――療養中、周囲の反応はどうでしたか? 大橋未歩: 一緒に住んでいる家族は心配していましたが、両親は「いつか健康本を出すんでしょう」などいじってきました。親が落ち込んでいたら罪悪感が増していたと思うので、おかげで救われたところもあります。 社会復帰の際は心のケアも大事だなと思いました。あまり腫れ物に触るように対応されると、居場所がないように感じてしまい、つらくなったりします。職場は心配してくれるからこそ、復帰後の職務範囲を慎重に設定してくれることもあるかと思いますが、その気遣いが疎外感に繋がることもある。組織と主治医と患者が連携できたらいいなと思いますね。私は利用していませんが、そういう3者の連携をしてくれる「両立支援コーディネーター」という人がいるので、もっと浸透すればいいなと思います。 ――今はどういう生き方を大切にしているのでしょうか? 大橋未歩: 遊ぶように、流されるままに生きる。たまたま生きているので(笑)。以前なら、目標達成のためにはつらいことも我慢しなきゃいけないと思っていました。でもそれは自分のエゴだと気づき、今は自分が楽しいことをしようと決めました。自分の特技をインターネットで売り買いできる時代なので、収入を得たり働き方の選択肢も増えていると思います。だから心と身体にストレスをかけずに、楽しいと思えることを主体にする。そうすると、やらなきゃいけない些末なことも、バランスを取りながらできます。 局アナだと自分のキャリアをマネジメントできなかったのですが、いまは好きな仕事を選んでいます。もちろん、収入面は会社員より不安定ですが、今は心の安定を何よりも大事にしています。