世界バンタム級4団体統一に向けて完璧な初防衛。中谷潤人が振り返る「濃密な157秒」
試合開始20秒――。サウスポーの中谷はルディからのアドバイスどおりアストロラビオの左ジャブの打ち終わりを狙い、左右ストレートの「逆ワンツー」を、力を込めてお見舞いした。力感あるこの逆ワンツーは、振り返れば157秒でつかむことになる勝利の戦略を象徴するような攻撃だった。 「ロス合宿のときから、ルディからは『(アストロラビオは)なかなかガードが硬いぞ』とアドバイスされていました。ガードの上からでも構わないので、『強いパンチがあるという印象を相手に与えられた』と思えるまで顔面に打ち続けようと思いながら戦っていました。 (アストロラビオは)パンチの強さもあるし、機動力もある選手。リングで向き合ったとき、身体の大きさやタフネスさも感じたので、もし自分の攻撃を耐えられたときは相手の距離にされる場面も多くなるので、『長い試合になる可能性もあるな』と思いました」 ちなみに前日計量時の53.2kgから5.5kg戻しの58.7kgでリングに上がった中谷に対して、アストロラビオは前日計量53.3kgから6.3kg戻し。59.6kgでリングに上がっていた。 31秒――。中間距離から飛び込みながら顔面に単発の左ストレート。アストロラビオは左腕を伸ばしステップバックして対応した。 「(想定した戦略以外にも)もちろんさまざまな場面や状況をイメージしながら練習して準備しました。一番嫌な状況は、相手の距離にされること。攻撃に繋がる誘いをかけるため、『敢えて相手の距離にする』のではなく、『相手が主導権を奪える距離にしないこと』を第一に考えてボクシングを組み立てました。ただし、もしアストロラビオ選手の距離にされても、近距離で攻め立てる準備もしていました」 56秒――。真っ直ぐ、にじり寄るように距離を詰めてきたアストロラビオはいきなりテンポアップし踏み込みながら強烈な右フック。重心を下げたまま身体を後傾させてアストロラビオの攻撃を空転させ右フックで応戦。しかしこれはかわされた。 1分11秒――。さらに圧を高め距離を詰めてきたアストロラビオに、右ジャブから左ストレートのワンツー。アストロラビオは反応しガードで防ぐも勢いに押されて後退。中谷はたたみかけるように、力を込めてワンツーから返しの左フックを踏み込みながら打ち込んだ。 アストロラビオはガードで防ぎ、怯(ひる)まず右ボディフックを打ち込み前進。お返しとばかりに気迫溢れる左ジャブ、右ストレートのワンツーをねじ込むようにして打ってきた。素早いステップバックでかわす中谷。ここからお互い距離を取って様子を探り合った。 飛び込んで接近戦を仕掛けたいアストロラビオ。 中谷は腰を落とし、懐を深くして追撃を許さない。 目には見えない両者の思惑と駆け引きが会場全体に緊張感を張り巡らせる。息を潜めるように静かに見守っていた観客から手拍子とジュント・コールが沸き始めた。中谷はこのとき、距離を測るため軽くジャブを出しつつ「あること」を確認していた。