なぜ、最低賃金ニュースは“経営者の悲鳴”ばかり? 労働者の声が消えるオトナの事情
首相叩きのストーリがほしいマスコミ
分かりやすいのは、新年早々に石破茂首相が会見で「最低賃金を2020年代に全国平均1500円に引き上げる目標に向け、国として最大限の対応策を講じる」と述べたことだ。 石破降ろしをしたい勢力や石破叩きの報道をしたいマスコミからすれば、「最低賃金の引き上げで、いたいけな中小企業経営者が悲鳴を上げている」というのは格好のネタだ。 マスコミも営利企業なので「多くの人に読まれるニュース」を量産しなくてはいけない。読まれるためには読者の共感を得やすい「分かりやすい敵」や「分かりやすい弱者」が必要だ。それが最低賃金というストーリーの場合、「引き上げに悲鳴を上げる経営者」というワケだ。 ただ、当たり前だが、これはマスコミにとってはハッピーだが、国民にとってはこの上なく不幸な話だ。 低賃金労働者に救いの手を差し伸べるだけではなく、日本経済をどうにか上向かせるためには、今回のように物価上昇幅に合わせて着々と最低賃金を引き上げていくしかないからだ。 日本経済の約7割は内需だ。デフレがどうとか円安がどうとかいう以前に、「低賃金・低消費」から抜け出さないことには、この国には未来がない。 そこでよくいわれるのが「春闘で賃上げムード」だとか、トリクルダウンがどうしたという理屈だが、これは期待できない。 トヨタが過去最大のベアを実現したところで、徳島県で最低賃金以下の時給で働かされている人たちにはなんの影響もない。労使交渉をするような大企業は、日本の全企業の中の0.1%に過ぎず、労働者の3割しか働いていない。これっぽっちの人々の賃上げが、残りの99.7%の中小零細企業にまで波及するというのは、さすがに経済をナメ過ぎている。
「消費税ゼロ」も救済にはならない
ちなみに、今でも一定の人たちが主張する「消費税ゼロ」も、低賃金労働者の救済にはならない。年収2000万円の人はもともと消費をたくさんするので、恩恵もでかい。しかし、時給794円で働いている60代女性は、消費も切り詰めているので恩恵もスズメの涙だ。晩ご飯のおかずが一品増え、500円貯金が始められるくらいなので、「低賃金・低消費」という構造的な問題は何も変わらない。 だからこそ、全ての低賃金労働者を引き上げる「ボトムアップ政策」が必要なのだ。 最低賃金を896円、980円と引き上げていけば、労働者に時給794円しか払えない経営者は事業の継続を断念するしかない。今、雇っている人はうまく丸め込んで働かせることができても、周囲の労働条件が良くなっているので、新しい人材確保が難しいからだ。 そうすると、時給794円で働いている労働者は、失業してしまう。ここだけ切り取ると確かに「不幸」なので、ここに注目する人たちは「最低賃金を上げるのも考えものだ」となる。 しかし、これはちょっと見方を変えれば、「低賃金労働からようやく解放された」ということでもある。今の日本は、外国人労働者や高齢者に頼らなくてはいけないほどの人手不足なので、選り好みさえしなければ、いくらでも仕事はあるのだ。そして、ここが大事なポイントだが、そのほとんどが前の職場でもらっていた時給794円よりも高い賃金なのだ。 つまり、最低賃金の引き上げというのは、低賃金労働者にとって一時期的な失業を引き起こすこともあるが、基本的には所得増につながるものだ。日本を30年以上苦しめてきた「低賃金・低消費」から抜け出すには、このような「賃金の底上げ」を47都道府県で進めていくべきなのだ。