なぜ、最低賃金ニュースは“経営者の悲鳴”ばかり? 労働者の声が消えるオトナの事情
マスコミが「経営者の悲鳴」だけ報じるワケ
先ほど徳島県内で、時給896円以下で働いているのは1230人と述べた。実はこれは調査した労働者のうち1.17%に過ぎない。超マイノリティーだ。 では、「多数派」はどんな労働者か。まず多いのは最低賃金スレスレで3520人。アルバイトやパートの時給は、最低賃金を基準に設定されるので当然だ。しかし、その他に多いところを見ると意外なことが分かる。 時給980円で働いている労働者は669人、時給990円は482人、時給1000円にはなんと6411人もいる。つまり、最低賃金を軽く上回る給料を労働者にしっかりと払っている経営者も、徳島県内にはたくさんいるということだ。 こういうデータを見れば、「最低賃金引き上げで中小企業が悲鳴!」というニュースが、実は「ほんの一握りの人」の声だけを集めてつくられたものだと分かるだろう。 最低賃金が896円から980円に引き上げられたことで「ええ、84円のアップ? もうダメだ、人を雇えないから廃業するしかない」という経営者は確かに気の毒である。一方で、それが徳島県内の中小企業の多数派の声かというと、そうではない。 マスコミの皆さんは「少数でも苦しんでいる人の声を伝えるのがわれわれの仕事だ」というだろうが、ならば先ほど述べたように、低賃金労働者を無視するのは道理に合わない。 なぜマスコミは最低賃金のニュースで、経営者側の「悲鳴」ばかりをクローズアップしがちなのか。 いろいろな見方があるだろうが、実際にマスコミで働いていた経験から言わせていただくと、「ニュースの価値を上げたい」という思いが強過ぎて、無意識に偏ってしまっているのだと思う。 低賃金労働者を「弱者」にして、最低賃金関連のニュースを流してもそれほど注目されない。先ほど紹介したように、このような人々は少数派であって、大多数の日本人にとっては「まあそういう気の毒な人もいるよね」という反応だ。 しかし、中小企業経営者を「弱者」にすれば途端にニュースの価値は上がる。日本企業の99.7%は中小企業であり、日本人の7割が働いている。そんな中小企業の倒産ネタは関心が高い。しかも、こういうアングルの良いところは「政権批判をしたい読者」のハートもわしづかみにできることだ。