藤井道人監督×道枝駿佑 映画界に生まれた新たな絆「声をかけてくれたらどんなことでも手伝います」
芝居をすることの楽しさを教わった現場
――ジミーが幸次と出会うのは、とある場所へ向かう電車のなかですよね。途中で電車を降りて雪合戦をするシーンなどもありますが、撮影現場で大変だったことは何ですか? 藤井 もう、とにかく寒かったよね! 撮影中に、みっちーの靴のなかに雪が浸水してきて。 道枝 ああ、そうでしたね、雪合戦のシーンで! 藤井 ただでさえ寒いのに、あれはかわいそうだった。申しわけない。あとは、電車でトンネルを抜けるシーンがあるんですけど、ちゃんと本物の電車に乗って撮影しているんですよ。トンネルに入ってから抜ける時間も、秒単位で調整しながら撮影したよね。「トンネルを抜けるまであと10秒です!」みたいな。 道枝 ホームに停まっている間に撮影しなきゃならないシーンもあって、発車するまでの数分で撮り切らなきゃいけなかったんですよね。時間制限があるなかで撮影するのは、すごく新鮮でした。 藤井 そのシーンで言うと、びっくりしたことがあるんです。ジミー役のグァンハンに「印象に残っているシーンは?」って訊いたら、みっちーとの電車のシーンだ、と。幸次とジミーの二人がホームで別れるシーンで、お互いに「バイバイ」って言い合ってすぐに電車の扉が閉まって、そのまま発車して……。あのあと、そのままグァンハンと会ってないんでしょ? 道枝 そうです。そのまま「おつかれさまです!」でした。 藤井 そりゃ、印象に残るよね。本当に電車は走り去っていって、そのあとも撮影は続いていく。そんなふうに、ドキュメンタリー的に撮っていくことも多かったです。 ――その瞬間でしか捉えられない感情を映すために、効果的な手法のように感じます。道枝さんは、今回の撮影を通して、藤井監督から学んだことは何ですか? 道枝 作品に向かう楽しさ、お芝居をすることの楽しさについて、あらためて実感できる現場でした。映画づくりにおいて、やっぱり楽しいのが一番だな、と。もちろん大変なことも苦しいこともありますけど、そんな状況すらも楽しむんだ! ってことを教えてもらいました。 電車に乗りながら撮影するのも、言葉の壁がありながらも、グァンハンさんとコミュニケーションをとりながら役をつくっていくのも、僕にとっては初めての経験が詰まった現場で。正直、撮影前は「どうしたらいいんだろう!?」って思うことも多かったんですけど、監督はもちろんスタッフの方もフォローしてくださったので、助かりました。基本的なことですが、周りの方々に感謝することの大切さも身に染みました。 ――「撮影そのものを楽しむ現場づくり」は、藤井監督にとって意図したものなのでしょうか? 藤井 今回の現場でつらかったこと……きっと、探せばあるはずなんです。でも覚えていないってことは、それだけこのキャストとスタッフで映画を撮ったこと自体が楽しかったんだろうな、と。 たとえば電車のシーンもそう。思い返せば大変だったはずなんです。トンネルの長さに合わせてセリフを言わなきゃいけないとか、タイミングを合わさなきゃいけない時点で大変ですよね。一度外したら、また撮り直しになるわけですから。 でも結局は、大人が集まって文化祭をやっているような一体感、団結が、映画作りには大事だと思うんです。そこに俳優部が加わって、さらにカッコよく、より良い映画をつくる土台が固まる。そのための現場にしていきたいな、と常々思っています。