いただく命に感謝 地域の情景伝える「生き物供養碑」を調査 滋賀・琵琶湖博物館
滋賀県立琵琶湖博物館(同県草津市)の「フィールドレポーター」と学芸員が、家畜や魚類などの死を悼んだ「生き物供養碑」の現地調査を進めている。これまでに存在が知られている滋賀県内46基の供養碑のほか、情報提供によって約10基が新たに発見された。来年1月末までの調査で、さらに見つかる可能性もある。碑文を手掛かりに碑の成り立ちを調べてみると、地域のかけがえのない情景がよみがえってくる。 ■世界的にも例なく 同館は身近な自然や暮らしに関する調査を担うフィールドレポーター制度を設けており、現在は210人が登録。金属や石に刻まれた文字資料(金石文)の中でも世界的にも例がないという、生き物供養碑が今年度の調査テーマとなった。 生き物供養碑は、東海大海洋学部准教授だった田口理恵さん(故人)が調査を行い、平成24年に著書「魚のとむらい-供養碑から読み解く人と魚のものがたり」で紹介したことで、広く知られるようになった。 田口さんの論文では全国1141基の存在が明らかにされており、これを基にした調査も合わせて滋賀県内の46基をリストアップ。県醒井養鱒場(米原市)の「小鮎塚」や、湖東・湖南地域の寺院に建立された、農耕や日清・日露戦争に使われた牛馬の供養碑などが含まれているが、それぞれの碑文を記録に残す詳細な調査は実施されていなかった。 今回の調査は10月中旬からスタート。干拓事業で生息地を奪われる生き物や、農業高校の家畜などの供養碑が新たに見つかった。 ■新技術で碑文判明 今月18日には、フィールドレポーターの大河原秀康さんや同館の橋本道範学芸員らが、東近江市の齢仙寺の境内隅に立つ「放生魚埋骨之処」と刻まれた供養碑を調査した。 新たに発見された碑の一つで、地元出身の近江商人・塚本源三郎が昭和初期に、門前の湧水池「鳰戸(におうど)霊泉」で死んだ魚の塚の前に建立したものだという。 情報提供した同寺の後藤慶裕住職によると、かつて湧水池では釣った魚の一部を放流し、いただいた命に感謝する風習があり、夏にはスイカを冷やすなど地域の憩いの場となっていた。 調査では「ひかり拓本」という技術を使って碑文をデータ化。さまざまな角度から碑に光を当て、影を撮影した複数の画像を合成する技術で、碑に紙を貼り墨を付けて転写する従来の拓本より素早く、くっきりと文字を浮かび上がらせることができるのが特徴だ。