『モンスター』坂本愛登の陰影を帯びた表情 趣里が見せた両極端な涙
亮子(趣里)の潜入調査では「買物ブギー」も
全員がちょっとずつ嘘をついていて、表向きそのことはわからない。清美は戸籍を偽造し、架空の妹である佐和子として働いた。商品にいたずらをした谷口たちを注意したのは副店長の佐和子で、逆恨みした谷口たちは佐和子に仕返ししようとする。しかし、その相手は清美で、戸籍上、佐和子と別の人物だ。もし裁判で本当のことを話したら、戸籍を偽造していたことがバレてしまう。しかし、本当のことを話さなければ栗本は有罪になる。いったいどうすればいいのか? 清美が自白したのは栗本のためで、結果的に検察の企てを覆すことになったのだが、法廷で逆転劇の立役者は亮子だった。通常の強盗事件は裁判員がいないが、強盗致傷罪は罪状が重く、そのため裁判員が評決に加わる。第8話のタイトルは「数字の鎖」だった。60歳をすぎて年齢を理由に仕事に就けなくなった清美。戸籍偽造は生きていくための苦渋の決断だった。という強盗致傷と直接結びつかない被害者側の事情を最大限に利用して、亮子は裁判員の心をつかむ。その目には大粒の涙が光っていた。 第6話で実父の粒来(古田新太)に完敗し、事務所でギャン泣きしていた亮子だったが、今度のは完全なウソ泣きである。目に涙をためて切々と訴える姿に、杉浦も開いた口がふさがらない。「裁判は単なる勝ち負けのゲームじゃないんです」に至っては、あまりのしらじらしさに思わず吹き出してしまった。劇場型のパフォーマンスには賛否があるだろう。でっちあげと言えばそれまでだが、「臨場感で巻き込む」芝居が説得力を最大化していた。 演技面では、潜入調査で「買物ブギー」ふうの大阪のおばちゃんになりきるなど、才能のリミットが見えない趣里に加えて、『不適切にもほどがある!』(TBS系)で一躍名をはせた坂元愛登が出色だった。陰影を帯びた多彩な表情と動作で語る芝居は今後の活躍を予感させる。悪意のないでっちあげが許されるハロウィンで石野真子と交わした笑顔は、虚実織りなす時間を心から楽しんでいるように映った。
石河コウヘイ