シリア情勢の裏で蠢く思惑 ロシアの弱体化とトルコの暗躍が中東勢力図を塗り替える
本稿執筆時点で、シリアの反体制派はここ5年間で最大の攻勢に出て、北部の要衝である第2の都市アレッポを含む複数の都市を奪還し、アサド政権に壊滅的な打撃を与えているようだ。このニュースは、中東はもちろん世界中に衝撃を与えた。何といっても、このような逆転劇は中東の勢力均衡図が大きく塗り替わる可能性を示唆しているからだ。 本稿では、中東のみならず、ロシア、ウクライナ、イラン、トルコ、さらには中央アジアにまで影響を及ぼすパワーバランスの転換点について解説する。 イラン、シリア、ロシアの枢軸は、すでにイスラエルによる痛打を受けていた。イランは中東における代理勢力の防衛に失敗した。パレスチナのイスラム組織ハマスとレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは、いずれも多数の死者を出す敗北を喫し、イエメンの武装組織フーシ派は米軍艦から激しい攻撃を受けた。シリアに武器を輸送するイランの計画はことごとく早期に発見され、イスラエルに阻止された。 だが、シリアの反体制派は、それとは異なる旗の下で活動している。彼らを支援しているのはトルコだ。では、今いったい何が起こっているのだろうか。なぜ今アレッポなのか、このタイミングでの大攻勢にはどんな意味があるのか? 明らかに、ウクライナでロシアがあのような戦略的失敗を犯さなければ、今回の事態は起こらなかっただろう。トルコからの報道によれば、反体制派が迫る中、ロシア軍はアレッポや周辺地域の拠点から撤退した。ロシア政府にとって今、アサド大統領らへの支援は重要性の低い取り組みであり、航空戦力、兵器、兵士といった貴重な資源を浪費している余裕はない。さらにアサドは、ここ数カ月にわたりトルコのエルドアン大統領が呼びかけていた関係改善のための首脳会談の提案を無視してきた。これが最後通牒であることをおそらくアサドは理解していただろうし、実際にそうなった。 たしかにエルドアンは寛容なタイプではなく、アサドの軽率な行動は彼を怒らせただろう。しかし、繰り返しになるが、なぜ今なのか。米国では、退任を控えたバイデン政権が、国際舞台から去る前にロシアをあの手この手で叩いているようだ。米政府の承認や計画支援なしに、トルコ政府がこれほど大規模かつ組織的なイニシアチブを調整するとは考えにくい。