ミセス「コロンブス」騒動における隠れた「勝者」 今までの「常識」が「古い価値観」に転換するゲームチェンジ
私たちの生きる近代以降の社会では、科学の進歩とともに新しい常識が生み出されては、長い年月のなかで更新されていくことになる。別の見方をすれば、私たちの社会を構成している諸原理――たとえば、資本主義だとか、国民国家、組織の階層構造、大量生産、労使関係といったもの――はすべて、科学的な疑いの目がかけられ続け、新しい常識へと再構築される可能性にさらされている。いかなる過去の常識に根差して活動することも、その常識が覆るリスクを抱え込むことになる。
■今の価値観では昔の価値観は「誤った」ものに思う そして現代では、この科学的常識の変化のスピードが、加速しようとしている。現代は、第4次産業革命と言われる、産業の基盤技術と、社会構造の変化が同時進行している時代である。生成AIやロボットの登場は、自然科学のみならず、人文・社会科学分野にも、決して小さくない影響を与えている。新しい技術的環境に合わせ、新しい社会制度や文化が必要とされているからである。
Mrs. Green AppleがMVで扱った「コロンブス」と「猿」は、まさにこの十数年で、常識がアップデートされたテーマであった。コロンブスはもはや虐殺者とみるべき存在であり、アメリカ大陸で紡がれてきた文明の破壊者である。猿は、有色人種を差別する意図を含むとみられやすい微妙なモティーフであり、おいそれと使ってはいけない、というのが一般的理解になろうとしている。 だからこそ、若者たちは驚いた。自分たちの時代をうたっているはずの人気ミュージシャンが、まさか、旧時代の人々がもつ“誤った昔の価値観”でMVを作るなんて。そのショックは計り知れず、かくも大きな炎上案件となってしまったのである。
かつて許されていたものが、明日にも「古い考え方」となり、社会からNoをつきつけられる。そんなゲーム構造のなかで、私たちは生きていくことが求められる。それが科学を土台とする近代という社会の基本駆動原理だからであり、そして今が科学の加速期だからである。 ■「コロンブス」騒動の隠れた勝者 我々が「コロンブス」の炎上から学ぶとすれば、それは、窮屈なようでも、変わりゆく常識の理解をアップデートしていかねばならない、ということだ。誰しも、もはや他人事ではない。いつなんどき、自分の考えが古くなってしまっており、炎上しないとも限らない。私たちは常に理解をアップデートし続けていかねばならない。