岡崎慎司が到達できなかった“一番いい選手”。それでも苦難乗り越え辿り着いた本質「今の選手たちってそこがない」
ビニシウスの「動き出し」とトニ・クロースの「目の良さ」
岡崎が指摘するように、優れた選手の条件の一つに「目の良さ」がある。視野の広さがよく取り上げられるが、視野が広いだけではダメで、何をどのようにスキャンして可能な限り素早く情報処理できるか、というのがセットでなければならない。 遠くで動いている選手を見ているだけではダメなのだ。その所作や狙いも“見えて”いなければ。じっくりと見て、確認して、それから出すのでは遅すぎる。相手だって予測しながら反応するのだ。 特に第一線のプロの世界ではそういった一瞬の駆け引きが勝負を分ける。例えば今季のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)準決勝1stレグのバイエルン戦で、レアル・マドリードのブラジル代表FWビニシウスがドイツ代表MFトニ・クロースの素晴らしいパスで抜け出して決めた先制ゴールはそんな要素が凝縮されていた。 ビニシウスがそろそろとボールに寄せる動きをしている段階で、クロースにはすでに急ターンからゴール前にできたスペースにビニシウスが動き出すビジョンが鮮明に見えていたことだろう。ビルドアップの選択肢を持ちながら、バイエルンの韓国代表DFキム・ミンジェがつり出されたのを視界の端に捉え、無駄のないモーションから完璧なパスで射止めた。
「全然ケガをしない状態であればやっぱり三笘とか冨安…」
世界トップレベルの選手が鎬を削るCL。岡崎もレスター時代にCLに出場している。選手にとってCLとはどんな舞台なのだろう。改めて尋ねてみた。 「チャンピオンズリーグはクラブのトップを競い合う場所。ブンデスリーガのクラブとプレミアリーグのクラブが戦うとかもそうだし、日本人からしたら、やっぱり華やかな憧れの舞台ですよね。リーグで戦っている時とはまた違う感覚です。『その先を見れる』じゃないですけど、自分の新たな可能性を知れる機会でもあります。でも例えばレアルの選手とかは当たり前のように毎年出場して、決勝までいってっていう人たちがいる。俺らが思っているCLとは(捉え方が)きっと全然違いますよね」 それこそ前述のクロースは古巣であるバイエルンとのアウェイ戦で、コーナーキックを蹴る時には、ビールコップやら何やらを観客席から投げ込まれても、何一つ顔色も所作も変えずに、いつも通りに歩いて、ボールをセットして、素晴らしいボールを蹴っていく。さすがはCL決勝を「他の試合と一緒だよ」と言い切ってしまう選手の落ち着きぶりだった。ではどの日本人選手だったら、もう1つ2つ上のステージに行けそうだろう? 「全然ケガをしない状態であればやっぱり三笘(薫)とか富安(健洋)、タケ(久保建英)とか。堂安(律)ももう一個頑張れば。メンタル的に強い人間だと思ってるんで。タイプ的に堂安の持ってるメンタリティとかは、自分と似ているところがあると感じるんですよね。才能のほうは全然あいつのほうがもともと持ってるものがあると思うんですけど、考え方とか冷静さ、冷静っていうか客観的に自分のことを見てるところとか。ただ……」 そういって、岡崎は後輩たちにメッセージを語りだした。 「もう少し貪欲になってもいいのかって。今の選手たちってそこがないから面白いんですけど、そこがあったらもっと上に行けるんじゃないかなって。ぎらつき感とか。もちろん持っていると思うんですけど、もっと出してもいいのかなって」