もし核兵器が使われたら台湾有事24発…日本含め数カ月で260万人犠牲 長崎大RECNA、起こり得る5ケース初試算
もし核兵器が使われたら-。核を巡る国際情勢が厳しさを増す中、長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)などの国際研究グループは、北東アジアで核使用が想定される事例と被害規模を初めて分析した。起こり得る五つのケースを詳細に検討し、放射線による影響も含めいずれも死者は数万~数百万人に上ることが分かった。米国の「核の傘」の下にいる日本も標的になる可能性がある、としている。 【画像】北朝鮮が核兵器を先制使用するケースで放射性降下物の飛散状況を示した図 米韓のシンクタンクなどと2021年度から始めた3カ年の共同研究プロジェクトの一環。核兵器を保有することで他国に核攻撃を思いとどまらせる「核抑止」のリスクの検証を目的に、客観的に被害規模を数値化した。 核戦略や安全保障の専門家による論文や討議を基に、核を保有する米中ロ、北朝鮮による先制使用や、テロリストによる核攻撃などを含めた30の事例を想定。このうち、核兵器の数や標的が異なる五つの事例について被害状況を試算した。 具体的には①国際的な経済制裁に危機感を抱いた北朝鮮が韓国の沿岸地域を攻撃し、米国が反撃②ウクライナ侵攻による緊張からロシアが在日米軍基地に核を使い、米国が反攻③台湾有事で米中による核戦争が勃発-など。被害規模は核弾頭の威力や爆発する高度、放射性物質の拡散などを考慮して推計した。 ①では3発の核兵器が使われ、北朝鮮と韓国で死者が1万1千人と推計。②は8発の使用で、日本やロシアで29万人が死亡すると予想した。 “最悪の被害”を招くのは③。シナリオの想定は、中国が台湾への武力侵攻に踏み切り、米軍が台湾を支援。中国は「核の先制不使用」の宣言を放棄して米軍基地に核ミサイルを打ち込み、米中の核の応酬に発展する-というもの。使われる核兵器は24発と試算。ほとんどが長崎原爆(TNT火薬換算で21キロトン前後)を上回る威力で、最大で約14倍の300キロトン。数カ月で260万人が犠牲になり、長期的には放射線による影響で9万6千~83万人が死亡する、と見込んだ。在日米軍基地なども狙われ、「死の灰」などの放射性降下物は西日本側を覆い、東南アジアまで拡散することが予想されるという。 五つの事例全てで攻撃された地域の人口の25~35%前後が犠牲になり、放射線の影響による死者数は数万~数十万人に上る。RECNA副センター長の鈴木達治郎教授は「現実に起きた場合はシミュレーション通りの被害にとどまる保証はない。被爆者が約80年たった今も苦しんでいるように、社会的、経済的なインパクトは長く残るだろう」と指摘する。 (松永圭造ウィリアム)