北陸新幹線京都駅で「地下水への影響」問題が勃発!酒造り・染色…伝統産業への影響を危惧する市長の懸念は南北案・桂川案では「杞憂」だ
松井市長は「南北案」と同位置の道路トンネルを要望
しかも、松井氏が市長を務める京都市は今、「南北案」とほぼ同じ場所(堀川通り)を南北に通る(新幹線ではない)「道路」のバイパスの「地下トンネル」を構想しています。 京都市が今年(令和6年)に中央政府に提出した「令和7年度 国の施策・予算に関する提案・要望」の要望書の43ページに 「堀川通の機能強化(バイパス整備等)に向けた、早期の事業計画策定」 と明記されているのです。 この「バイパス構想」の詳細は、例えば 「京都市中心部へ『信号ゼロ』直結!? 夢の『堀川通バイパストンネル』計画に反響多数『早く実現して』『信号ばっかり』いよいよ具体化へ“議員連盟”も発足」 にて解説されていますが、上記の様に南北案の新幹線とほぼ同じところ(堀川通)を平行して南北に通す「地下トンネル」を掘る構想なのです。 その深さの詳細はまだ正式な資料等は当方は目にしたことは有りませんが、現状の堀川通りも、「地表面」よりも深いところに「掘削」して作られた道路なので、「バイパストンネル」は、それよりもさらに深いところに作られるものと考えられます。 松井市長は京都の産業のために大変に「地下水」を懸念しておられるわけですが、その松井市長本人が「南北案」とほぼ同じ場所・同じ方向に「地下トンネル」の整備を国に「要望」しておられるわけですから、少なくとも北陸新幹線京都駅の三案の内の「南北案」は、松井氏にとってさして深刻な地下水問題をもたらすとは考えられないのだ、と考えることも出来るように思います。 なお、以上の考察はおそらくは、さらなる現地調査を進める国土交通省や(独)鉄道・運輸機構がより詳しく進めておられます。おそらく、近日中にその公表結果が示されると思いますが、少なくとも、これまで公表された情報に大きな改定が無い限り、以上に当方が述べた「結論」とさして変わらないものとなる見込みが高いと考えられます。 大型公共事業になると、(土木工学「以外」の学者達を含めた)一部の人々が、その事業の大きさ故にどうしても「不安」となり「慎重」な意見を発することは往々にしてあるのもある意味当然であると思います。 その意味において、松井市長が市長として懸念を表せられるのも、ある意味当然であると考えられます。 だからこそ、ここで述べた科学的・技術的考察は、より慎重に、より正確に進め、より適切で合理的な政策判断が下せるようにしていくことが必要なのだと思います。 本稿の考察が、そうした科学的・技術的により適切な世論が形成されることに幾分成とも貢献できますことを、心から祈念いたしたいと思います。 ********************************* 【補足1】 この有識者会議では地盤工学が専門の先生も「トンネルを長くすると不測の事態が起こりやすくなる」と発言された旨が報道されていますが、このご発言はあくまでも一般的な技術的ご指摘と解釈することができます。 【補足2】 これまでの地下鉄南北線・東西線、阪急京都線、京阪鴨東線等の京都の置換の鉄道はいずれも、シールド工法と異なる「開削工法」(オープンカット工法)と呼ばれる、地下水に影響の大きな工法が採用されてきました。これは、シールド工法が新しい技術で、当時は開削工法の方が一般的だったからです。 この開削工法は安全に工事をするために「地下水位をポンプ等を使って強制的に引き下げ」てから行うものですから、工事中には当然地下水低下の影響がでる事になります。しかしそれでもなお過去においてはそうした工法で繰り返し工事が行われてきたのわけですが、その背景には、工事が終わり、水位の強制的引き下げが終わった後は、特に地下水への影響は出ていなかった(関係者からそのように伺っています)から、という経緯があったものと考えられます。 一方で、シールド工法はこうした「地下水位の強制引き下げ」を行わずに掘り進む工法ですので、開削工法の施工完了後に地下水への影響がでていない以上、少なくとも理論的にはシールド工法の場合には地下水の影響がでない(あるいはあったとしても、施工が終わった後にもなお残存している影響の程度と同水準である)と推定される事になります。
藤井 聡(京都大学大学院工学研究科教授)