【夏の甲子園、開幕!】昨年の優勝校・慶應高校野球部の組織論から、中間管理職はじめビジネスパーソンが学べることとは?
慶應高校野球部から中間管理職が学べることとは?
◆失敗の機会を奪わない 若手社員をどう育成すればいいのか。これは組織にとって永遠の課題だ。 ただ一つ言えることがある。失敗によって人は育つ。野村克也さんは「失敗と書いて『せいちょう』と読む」という名言を残した。 森林貴彦監督の指導理念もそうだ。私のインタビューにこんな話をしてくれた。 「監督のおかげでまとまったとか、監督の言った通りにやったら打てましたとかいう経験って、させてもほとんど意味がないと思っています。『自分たちでやったけど、うまくいかなかった』の方が、意味がある」 大切なのは致命的にならない範囲で「ちゃんと失敗させるシステム」だ。まかせて、思考させる。苦悩の中で出した結論はそれが成功でも失敗でも、自らの学びになる。 真の失敗は、若き日に失敗の機会を経ることなく、傷つくことなく大人になってしまうことだ。失敗を恐れて打席に立たないことよりも、3度フルスイングする姿勢をたたえたることで、組織内にチャレンジングな空気は醸成される。 ◆リーダーは「上」ではなく「横」に 昨夏の甲子園では正捕手として日本一に貢献し、慶大進学後も東京六大学野球春季リーグ戦で活躍した渡辺憩は、森林監督の指導についてこう証言してくれた。 「森林さんは良くも悪くも僕たち選手と結構、距離が近いんです。強豪校はどうしても監督が上で、逆らえない感じが多いと思うんですが、森林さんは上にいない。いつも、横にいるんです」 組織人として最も大切なのは「報告」「連絡」「相談」。しかし上下の距離感から、この連係がしにくくなることは避けたい。リーダーが「横」から寄り添えるような関係性を築けば、風通しは自ずと良くなるだろう。 森林監督は「コミュニケーションの入り口は観察だと思っているんです」と話す。部下との会話が「暑いね~」「パリ五輪見てる?」となるのも決して悪くはないが、できれば普段の観察を生かした、中身のあるものにしたい。「自分の頑張りをしっかりと見てくれているんだな」と若手に伝われば、モチベーションも自ずと高まっていくことだろう。 ◆「全て自分がやる」から「まかせる」リーダーに 本書で「まかせて伸ばす」指導法を語ってくれた森林監督だが、就任2、3年目は「全部自分でやりたかったんです」と言う。 「メンタルトレーニングも自分で勉強して、自分の口で伝えたいと思っていましたし、ウエイトトレーニングもそう。自分で学んで、指導していましたから。だけど3年経った時、『これは無理だな』と。今は無意識のうちに人を巻き込むことしか考えていない(笑)。だって、一人はちっぽけじゃないですか」 私にも心当たりがある。中間管理職になりたての頃、若手に業務を託した結果、ミスが出てしまったことがあった。「俺が自分でやった方が早い」と仕事を抱え込んだ結果、心身がパンクした。思い返せば若手のミスも、私の指示が的確でなかったからかもしれない。自分で業務を抱え込んだのは自己満足で、組織としては有効な手立てでなかった。 ならば爽やかに人の手を借りて、その成果に感謝の気持ちを表したい。適材適所に人を配置し、最大限の効果を目指す。一人ひとりが前向きに課題へと取り組む「全員で戦う組織」になっていけば、自ずと成果は出るだろう。