経営数字を公開して考える「わざわざ本屋さんに行く理由」
岩見:蔵前はゼロ年代から「東京のブルックリン」などと呼ばれて注目されるようになり、まさしくこの町で、面白いスモールビジネスが増えているからです。 今回、「透明書店」を訪れた時に、小さいけれどユニークな店がたくさんできている界隈(かいわい)をついでにお散歩しました。飲食店も選ぶのに迷うほど、いろいろあって楽しかったです。 ●「蔵前の本屋さんにわざわざ行く意味」をつくる 岩見:ブルックリンは、ニューヨーク・マンハッタンの川向こうにある倉庫街でしたが、ゼロ年代からリノベーションが進んで、若い世代を中心に盛り上がっていきましたよね。蔵前もまさに隅田川のほとりの町。浅草やスカイツリーというメジャーな観光スポットに近いけれど、もともと問屋街で地元感、ご近所感が息づいています。 倉庫跡にビーン・トゥ・バーのチョコレートショップや、リノベーションホステルなども次々とできて、スモールビジネス支援というテーマで僕たちが書店をやるなら、蔵前はリアリティーを持って発信できる場所だと思いました。また、この界隈には「古書フローベルグ」や「浅草御蔵前書房」という、新旧の個性的な古書店がある一方、新刊書店がありませんでした。そのことも、蔵前を選んだ理由の1つです。 日常的でありながら、ハレのスポットにも事欠かない。メジャーな東京の繁華街とは違う魅力がありますね。 岩見:空き倉庫にポツポツと店ができて、エリア全体が変わっていった流れから、商店主さんたちもガチガチに縛り合うのではなく、疎遠でないけれど、何かあれば助け合う、みたいな、いい塩梅(あんばい)のつながりなんです。 ここに出店する前に、近くのアートギャラリーのオーナーさんが、「今度、本屋ができるらしいよ」と、ご自分のお客さんたちに伝えてくださっていたことを後で知りました。蔵前には「カキモリ」という、「書くこと」に特化したすてきな文具店もあるのですが、そこのご主人も「透明書店」のイベントに来てくださって、その流れで蔵前忘年会にも誘っていただきました。 その忘年会も、蔵前の小規模なお店のオーナーたちがわいわいと集まって、いい雰囲気で。「どこかのIT企業が、何かやってら……」と、遠巻きに眺めるのではなく、ちゃんと仲間として受け入れてくださったことは、本当にうれしかったです。 スモールビジネスというキーワードだけでなく、地域ビジネスという側面も、書店にはあるんですね。 岩見:売れ線の本を手っ取り早く入手したいのならAmazonがありますし、早く読みたいのなら電子書籍があります。 だけど書店経営には、数字とは別の価値がある、と。 岩見:はい。わざわざ本屋に出かける意味は何か。「透明書店」2周年以降は、そこもより深く考えていきたいです。 書店“冬の時代”に、本屋さんをいかに成立させていくか。経営ノウハウはもちろん大事ですが、書店にはそれとはまた違う次元の、人の心をつなぐ面白さも潜んでいます。 岩見:「透明書店」をやっていく中で、「もうかるからやる」以上に、「好きだからやる」でもいいじゃないかと、そう思うようになりました。好きで始めた書店を、じゃあどうやって成り立たせていくか。その、成り立たせ方について、僕たちがいろいろなチャレンジをして、発信していきたいと思います。
清野 由美