経営数字を公開して考える「わざわざ本屋さんに行く理由」
岩見:「透明書店」ではコンセプトを明確にして、ブレのないように棚を作っているので、見計らいで、どの棚にも挿せない、置けない本がぼーんと届いて、返品をするとなると、手間とともに物流のコストや環境への負荷がかかってしまいます。 慣習が労働負荷や環境負荷につながることは、書店にとっても、世の中にとっても、よくないですね。 岩見:そういうことの改善も、「透明書店」を経営する意味だと考えています。 その上で、大手の取次と取引する利点は、どこにありますか。 岩見:例えば買い取り前提で、仕入れの掛け率を下げられないだろうか、ということも念頭に置いて、様々な取引先を考えたのですが、やはり広くあまねく本を仕入れられることで大手にはアドバンテージがあると思います。大手取次は、書店ビジネスの現状についても課題を把握して、さまざまな取り組みをされています。ビジネスにとっては、最新の動向や情報交換も大事なことですので、その点でも大手の力を感じています。 ●書籍の利益配分はどうなるのが理想だろう 本の利益配分は現在、著者10%、出版社60%、取次10%、書店20%という相場になっています。既存の構造で、ここがもうちょっと改善されれば、町の本屋さんはやりやすくなる、という点はありますか。 岩見:僕は前職がアパレル業界でしたので、そちらと対比してみます。アパレル、雑貨は、仕入れの掛け率が55%から70%が相場ですので、それと比べると書店の取り分は少ないと思いますね。アパレルは単価、上代をある程度高く設定できます。でも、単行本の売れ筋は、1800円ぐらいまでです。今村翔吾さんもおっしゃっていたように、そもそもの本の上代が安すぎる問題が、そこにはあるかもしれません。 厳密な計算でなく、直感で結構ですが、本の単価と掛け率は、どれくらいだといいでしょうか。 岩見:書店にとって、うれしい掛け率……ということですよね。「透明書店」の遠井店長に聞いたところ、「60%ぐらい」ということでした。ただ、これは本の上代にもよってきますよね。ジャンルにもよりますが、本体価格が2200円を超えると、やはり本の売れ行きは途端に鈍り出します。 本をつくるほうの立場から言うと、著者を守るために本の価格を引き上げるアイデアも肯定したいのですが、自分が本を買う時に価格が2000円以上だと、やはり考えてしまいますね。 岩見:とはいえ、本の上代が例えば2200円前後になり、仕入れの掛け率が60%になるなら、書店はいろいろなチャレンジが可能になります。 ということは、現在の構造で書店を成立させることは難しいという、そもそもの問題意識に戻っていきますね……。 岩見:規模の大小にかかわらず、書店単体で利益が出ているところは、おそらく非常に限られているでしょう。多くの書店が、別の事業もやりながら、心意気や使命感で店舗を存続させている。それが書店業界の特殊なところだと思います。 ちなみに、日本社会における文化・教養の価値の保全とともに、書店ビジネスを守っているといわれる「再販制度」「委託制度」は、やはり書店にとっていいことなのでしょうか。 岩見:販売予測が立ちにくい本の場合、委託制度がありがたいと、現場で感じることはあります。ただ、ここはまだ僕らの中で明確な答えは出ていません。それぞれ一長一短があるな、というのが現在の正直な感想です。 そのあたりは試行錯誤の途中なのですね。さて、質問を変えて最後に「蔵前」という立地について伺えればと思います。渋谷、新宿といったメジャーな商業地ではなく、蔵前を選んだのは、どうしてだったのでしょうか。