企画の鬼、CCC増田会長の「鬼秘録」|増田宗昭×小山薫堂スペシャル対談(前編)
放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」に、カルチュア・コンビニエンス・クラブ取締役会長の増田宗昭さんが訪れました。スペシャル対談第14回(前編)。 小山薫堂(以下、小山):増田さんは蔦屋書店の創業から40年間、一貫して豊かな生活のヒントや個人的楽しみを見つける場を創造してきましたよね。振り返っていま、どんな時代になったとお考えですか。 増田宗昭(以下、増田):「企業の時代」から「個人の時代」に確実に変化したよね。 小山:それはどういう点で? 増田:企業というのは、食ならレストラン、芸能なら事務所だけど、それがどんどん個人化して、オーナーシェフやアーティストとして活躍するようになっていった。だからオフィスのあり様も様変わりするなと思って、2019年、渋谷スクランブルスクエアに「SHARE LOUNGE」を出店したんです。 小山:シェアオフィスの機能性とラウンジの居心地の良さをあわせもった素敵な場所ですよね。何店舗まで増えました? 増田:国内に31店舗、海外に3店舗かな。 小山:すごい。それって先に「企業の時代から個人の時代へ」を思いついたんですか。それとも「シェアラウンジ」が先にひらめいて、その後付けとして「企業から個人へ」というのが生まれるんですか。 増田:さすがいいこと訊くね(笑)。インスパイアというのは二通りあって、データや実績から導き出すケースと、何かの現象一発で「世の中こうなる!」とひらめくケースがある。で、僕と薫堂は後者が強い。 小山:そうですね。 増田:例えば、誰かと誰かがキスしているのを見た瞬間、「明日、鴨川が氾濫する!」とかさ。 小山:(笑)僕はそんなことは思わないですけど。 増田:そう?それで、釈迦に説法だけど、前者が帰納法で──。 小山:後者が演繹法ですね。 増田:そう。この両方をやることが、企画で一番になる唯一の方法なんです。ただ、現象面から企画をつくろうと思うと、その人に知見が必要なんだよ。AIはデータ集め、つまり帰納法が得意だし、演繹法はたくさんのケーススタディから導き出した知見をもった人間でないと無理。特に「失敗」こそが企画のもとなんです。重要なのは自由を実現すること 小山:僕、最近、新しい会社の名前を考えたんです。 新しい会社をつくる予定はないんだけど、先に「あ、これ、社名にしたい!」と思って。 増田:まさに演繹法だ。どんな社名? 小山:「株式会社ココロトマナザシ」。自分の心のなかにどんな思いや経験や知識をため、どんな眼差しで社会を見るのか。その心と眼差しによって、新しくて素敵なモノやコトが生まれていくんだなと思って。 増田:いいね。やはり時代の1.は「個人の時代」だよ。そして時代の2.は「データの時代」。いままでは蓄積のみだったけど、ようやく活用の時代になったからね。その1.と2.のバランスが大事。