「保存樹木だったケヤキ」はなぜ伐採されたのか、1本の大木が問いかける街づくりに欠けた視点
都市開発に詳しく、新宿区や渋谷区の景観審議会委員の経験もある東北大学大学院工学研究科の窪田亜矢教授も、「今回の保存樹木制度をめぐる問題は、指定にしても、指定解除にしても、住民が合意形成に関与できるルートを設けることは自治体の政策としてできることです」と指摘する。「ただ、実態としてそうなっていないことが残念です」。 ■景観や建造物保存に対する意識の違い 欧米では一般的に、都市開発において歴史的に価値のある景観や建造物を保全しようとする意識が高く、住民が合意形成に関与できる仕組みが確立されている。
例えば、ニューヨーク市では1965年に「歴史的環境保全条例」を制定。歴史的保全地区に指定されたエリアで再開発を行う場合、市長の任命と市議会の同意を受けた「歴史的環境保全委員会」が開催され、住民に意見を聞いたうえで保全すべきかどうかを指定する。 ニューヨークには100以上の保全地区エリアがあり、不動産開発などをする場合には、事業者と住民の話し合いがきちんと行われるという。 「本来、開発というのはそれだけの労力が必要なもの。資本主義の父といわれるニューヨークでも、事業者と住民が膨大な時間をかけて都市のあり方を議論するのが、当たり前のこととして受け入れられている」(窪田教授)
一方、「日本の自治体の多くには『開発=まちを発展させてくれるもの』という意識があり、開発事業者に対して一方的に協力・支援する傾向がある。そこでは住民の意見は『開発を妨げるもの』とされるので、結果として開発がブラックボックスのまま進んでしまうのです」(窪田教授)。 ニューヨークの事例では、住民が合意形成に関与できる仕組みはあるが、その前提となるのはまちに誇りを持つ市民の「思い」だ。せっかくアクセスの権利とルートがあっても、住民が声を上げなければ状況は変わらない。
「行政はあくまで住民の生活を助ける主体であり、行政が主役ではありません。その行政を動かし、保存樹木の指定や指定解除に対して住民参画の仕組みをつくるためにも、まずは住民の側が声を上げる必要があります」(窪田教授) ■まちづくりにおける「文化」の醸成が重要に 窪田教授がそのカギに挙げるのは、まちづくりにおける「文化」の醸成だ。「自分たちの地域の住環境は自分たちで守っていこう、という文化を、その地域の中で育んでいくことが重要です」(窪田教授)。