「保存樹木だったケヤキ」はなぜ伐採されたのか、1本の大木が問いかける街づくりに欠けた視点
これまで何かに対して抗議などしたことはない。だが、マンション開発を手掛けるオープンハウスなどに「周知されていないのはおかしい」と疑問を投げかけ、伐採の取りやめを要請した。 同時に「自分が声を上げなければ、好きなようにされてしまう」と、意を決してnoteやFacebookを通じて疑問を投げかけたり、区議会議員に掛け合ったり、近隣を回って署名活動も始めた。 飯田さんがケヤキの話をすると、「今日いきなり切られ始めてびっくりしちゃって……」「保存樹木だから残されるのかと思っていました」と多くの住民が同じ思いを打ち明けてくれた人もいた。
世田谷区の「中高層建築物等の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」(中高層条例)によると、隣接区域(10メートル)の住民に対しては開発事業者の説明義務がある(第7条)ので、説明の機会はあったという。ただし、「説明」とはあくまでマンションの建設についてであり、保存樹木の指定解除・伐採についての話は特になかった。世田谷区側も中高層条例は伐採には適用しないというスタンスだった。 一方、事業者側からすれば、適正な手続きを経て事業計画を進めているにすぎないので、計画を止める理由がない。「ケヤキは避難路にあたる」「敷地内にこの大木は移設できない」といった説明のほか、費用や管理面の課題も説明されたという。
本件についてオープンハウスに問い合わせたところ、「行政のルール・指導に従って進めております。また、近隣住民の皆様とも協議をしながら、適切に進めております」との回答が返ってきた。 実はこうした保存樹木をめぐる訴えは各地で起きている。 杉並区でも、区の保存樹木に指定されている25メートルのケヤキの木が、やはりマンション用地となったことを受け一方的に指定を解除された。住民有志が署名サイト「Change.org」で伐採反対を訴えたところ、1万人を超える署名が集まった。