「ヒグマが突進、死ぬほど怖かった」“子連れグマ”との距離は数メートル、手が震えて…動物カメラマンが恥を忍んで告白
〈日本でいちばんクマを撮っている「クマ恐怖症」になったカメラマンが5年がかりで撮った“決定的瞬間”とは〉 から続く 【画像】ゆっくりとこちらに向かってきたという親グマの姿 日本で今、もっともクマの写真を撮っているカメラマン、二神慎之介は昨年、日本全国でクマが大量出没した“好機”に、ほとんどクマの写真を撮らなかったという。その理由について、「怖かったから」と素直に語る。二神の最大の弱点。それは長年の濃密な撮影活動による「クマ恐怖症」を抱えているということだ。日本で今、もっともクマの写真を撮る男は、もっとも“ビビり”な男でもあった。 クマと人との遭遇事故が頻発する昨今、二神はこう警鐘を鳴らす。「クマの本能が変化してきている。『共生』という言葉では、追いつかない時代がすぐそこまで来ています」――。(全3回の2回目/ #3 に続く) ◆ ◆ ◆
子連れヒグマとの遭遇
――ヒグマを追いかけていると、危険な目に遭遇してしまうこともあるわけですよね。 二神 これはあんまり話したくないのですが……。本来、そういうことがあってはならないので。僕と同じ失敗を繰り返さないで欲しいという意味で恥を忍んで、今回はお話しします。知床の山に入るようになって、2年目だったと思うんです。その頃は、とにかく夢中だったので怖さよりもクマに会いたいという気持ちが勝っていた。12月に入って、森の中をあてどもなく歩いていたんです。そうしたら雪景色の中、すごくきれいなヒグマが歩いていたんです。「うわ、俺が会いたかったクマはこいつだ!」と思ったんです。今でもいちばん美しいヒグマだと思っているんですよ。ただ、そのクマは子連れだったんです。 ――子連れのクマはとにかく怖いという印象があります。 二神 子どもにレンズを向けたら、親グマは何かされるんじゃないかと思ってすごい怒ります。なので、子どもが先に逃げたのを確認してから親だけを単体で撮っていたんです。僕はすごく興奮していて、記者会見場のカメラマンみたいにパシャパシャ撮っていた。そうしたら、親グマがゆっくりとこちらに向かってきたんです。 まずいと思ってクマスプレーを構えたんですけど、手が震えてストッパーが外せなかった。とても簡単な作業なのに。クマとの距離が20メートルを切っていたので、クマにプレッシャーを与えちゃいけないと思って腰をかがめたんです。でも今思うと、すでに怒っていたので意味がないんです。やるなら立ち上がって、威圧すべきだったのかもしれません。そのときのクマの圧力がとにかく凄くて、最後は、尻餅をついてしまった。そうしたら上からジロッと僕のことを見下ろして、しばらくしてから、きびすを返したんです。僕は「はぁ……」って、呆然と去って行くクマのお尻を眺めていました。