「保存樹木だったケヤキ」はなぜ伐採されたのか、1本の大木が問いかける街づくりに欠けた視点
■法的には保存樹木の伐採を止めるのは難しい ただ、法的には今回の件も含めて、景観保護を理由に保存樹木の伐採を止めることは難しい。 「そもそも『その木は誰のもの?』というと、当然ながら所有者のもの。切るのも保存するのも、その所有者の自由であり、保護すべき権利。その権利に制約をかけるのは重大な人権侵害となる」と、不動産法務に詳しいAuthense法律事務所の森田雅也弁護士は説明する。 例えば、所有権を制約するのであれば、他の権利との調整問題になる。「訴訟によって、所有者や開発事業者の権利の制約を是とするほどの侵害利益があるかを認めさせることはきわめてハードルが高い」(森田弁護士)。
また、人格権から導かれる「まちづくり権」にもとづいて周辺住民が開発工事の差止請求を起こす方法もあるが、ここで主に想定されるのは騒音被害などのケース。今回のような景観保護のケースには当てはめにくいという。 保存樹木を残す究極の方法はその土地自体を買収するしかない。が、「例えば保存樹木と調和したマンション開発を行うことでより収益を上げられる提案ができるなど、所有者や開発者のメリットを訴えることができれば協力してくれる可能性があるのではないでしょうか」(森田弁護士)。
土地の所有者と開発事業者の合意にもとづき、適正な手続きによって保存樹木が指定を解除され、伐採される。そのプロセスに法的な落ち度はない。しかもケヤキの木1本じゃないか、と言われればそれまでだ。だからといって地域の景観を形成し、住民に親しまれてきた保存樹木が次々に姿を消していく状況を看過してよいものだろうか。 そうした中で、今後地域の開発やまちづくりにおいてカギを握るのが住民による合意形成だろう。森田弁護士も、「住民の意向を反映させたいのであれば、訴訟などを提起するのではなく、事前の計画段階において民主的な合意形成のプロセスを踏むことが望ましい」としている。