なぜヨーロッパの郵便ポストは「ホルン」のマークなのか?
トゥルン・ウント・タクシスのお城
お城の中でも最も古い部分は北翼。12世紀にまで遡る。ベネディクト会の修道院の回廊などがそのまま残っている。ここは聖エメラム教会が世俗化した1812年以降にトゥルン・ウント・タクシスの所有となる。 お城は改築、増築を繰り返し、現在の姿になった。イギリスのバッキンガム宮殿よりも大きなお城である。 実はフランクフルトに立派な宮殿を完成させた10年ほど後に、一家はレーゲンスブルクに引っ越すこととなった。フランクフルトに建てた宮殿から一部鏡や家具なども移動させたおかげで、その後フランクフルトの宮殿が火災に見舞われた際、焼失せずにレーゲンスブルクで保管されていたのは幸いだった。一方、古い建物を改築したため、天井が低く、それに伴う苦労や工夫もあちこちに見られる。 いずれにせよ、ヨーロッパ中に権力を持つ貴族がレーゲンスブルクに引っ越してきたことは、町の発展にとっても大きな意義がある。ウィーン風の社交性、2330冊もの個人所有の書物(1786年以降一般にも公開されている)、劇場、旧市街南部に広がる緑地帯など、他にもまだまだ挙がるだろう。 このお城には、今でも11代目の侯爵夫人であるグローリア氏(12代侯爵の母)がお住まいだ。現役の住居であるお城にも関わらず、1日に何度か開催されるガイド付きツアーに参加することにより見学できるという、非常に貴重なお城なのである。 先日私が訪れた時も、会食準備中の部屋は、机に白いテーブルクロスがかけられ、いつもの場内見学コースから外されていた。また城の一部の部屋は結婚式や式典などのために貸し出される他、お城の中庭では毎年7月に複数のコンサートが、11月末(2024年は11月22日より)には敷地を開放してクリスマスマーケットが開かれる。慈善活動としては、一部の図書の閲覧を一般人向けに可能にしたり、1日最大で300人分の食事を無料で提供したりしている、という非常に開かれたお城なのだ。 レーゲンスブルクにあるトゥルン・ウント・タクシス城は、過去の栄光を感じつつも現在も「生きて」いる。歴史的背景を知った上で、是非訪れていただきたいお城である。現在ドイツ語、英語のみのガイド付きツアーがあるが、いずれ要望が高まれば、日本語のツアーも開催される日が来るかもしれない。 文・写真/吉村美佳(ドイツ在住ライター) 東京時代にバックパッカーとして25カ国を訪問した後、2002年末に渡独。レーゲンスブルク観光局公認日本語ガイドである傍ら、大好きな町レーゲンスブルクから情報を積極的に発信している。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。
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