1ドル=180円になっても新NISAを支持できるか、と問いたい
為替や株式市場が乱高下し、新NISA(少額投資非課税制度)により「貯蓄から投資へ」という流れができた昨今。ビジネスパーソンも「お金との向き合い方」を考え直すタイミングに来ています。そんな中、お金にまつわるベストセラーとして24万部を突破した『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)の著者である田内学氏と、長引く円安の原因に迫った『弱い円の正体』(日経プレミアシリーズ)の著者である唐鎌大輔氏が語り合いました。2人の主張に共通するのは、「短期的な視点では見落としてしまうものがある」ということです。 【関連画像】唐鎌 大輔(からかま・だいすけ)氏、2004年、慶応義塾大学経済学部卒業後、JETRO入構、「貿易投資白書」の執筆などを務める。07年から欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、年2回公表されるEU経済見通しの作成などに携わる。08年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。財務省「国際収支に関する懇談会」委員。著書に『「強い円」はどこへ行ったのか』、『弱い円の正体』(いずれも日本経済新聞出版)など多数。(写真=的野 弘路) ●「腐らないお金の議論」をする お金に関するベストセラーといっても、『きみのお金は誰のため』と『弱い円の正体』は、かなり種類の違う本です。前者は、中学生が主人公のお金をテーマにした小説。後者は、みずほ銀行のアナリストが為替を取り巻く構造的な問題について解説しています。今回の対談は、実は田内さんたっての希望で実現しました。 社会的金融教育家・田内学(以下、田内氏):そうなんです。私は2003年にゴールドマン・サックスに入社して、19年まで金利のトレーダーをしていました。今は執筆や講演、メディア出演などを通して、金融や経済の本質と、個人がどうすべきかをお伝えしています。唐鎌さんの『弱い円の正体』を読ませていただいて、ぜひ一度お話ししたいと思っていたんです。 みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト唐鎌大輔氏(以下、唐鎌氏):ありがとうございます。田内さんのご活躍はいろいろなところで拝見しています。 田内氏:唐鎌さんが書かれているような、「現在の構造的な問題が解決されない限り、今後も大幅な円安が続く可能性がある」という話を表面的に捉えてしまう人は、この対談の時点(9月中旬)で1ドル=140円台前半になって円高に振れているニュースを見て、「唐鎌さんの予想、当たってない」と思ってしまうかもしれません。 唐鎌氏:まさにそこなんです。実際は「円安時代の円高局面」なのですが、短期的な予想ばかり重視する人には、こちらの主張が伝わりづらい。 田内氏:毎日為替相場をチェックして、為替の取引で稼いでいる人は仕方がないのかもしれません。とはいえ、天気予報を当てるような感覚で為替の動向を見るのではなく、構造的な円安の要因があるのなら、自分たちの力でそれを是正して流れを変えていくべきだと思っています。金融経済教育にフォーカスが当てられていますが、「市場の予想屋」を育てるのではなく、現状の問題を認識して、どのように未来を変えていくかを考えることが重要です。その点で、唐鎌さんの為替の話は他のエコノミストとは一線を画していると思いました。 唐鎌氏:24年7月には1ドル=160円台前半になりましたが、そこまで円安が進むと予想した専門家は、私も含め、誰一人としていませんでした。経常収支の大幅な黒字や世界最大の対外純資産残高というステータスは一見して円の強さを担保しそうなのに、その「素顔」としてはキャッシュフロー(現金収支)が流出していたり、黒字にもかかわらず外貨のまま戻ってこなくなったりしている可能性があるわけです。もちろん、FRB(米連邦準備理事会)が利下げをする局面になれば、自然と今のように円高に振れますが、変動為替相場制というのはそういうものですよね。そういうことを針小棒大に騒ぐべきではないというのが私の基本的立場です。 田内氏:日々の為替レートを見て騒いでいるのは、自分の為替ポジションでどう稼ぐかを考えている人たちですよね。少なくとも、日本が今、危機的な状況にあるという唐鎌さんのような問題意識はない。 ●「日本国債への愛」に驚く 唐鎌氏:円が明日上がるか下がるかを知りたい方は、私の本ではなく、何か別の投資情報を読んでください、というのが本音のところです。 田内氏:私は金利のトレーダーをしていたので、日本国債の動向からお金の動きを考えていました。その中では「果たして日本の財政は破綻するのかどうか」という議論が以前からあります。その話を今してもいいですか? 唐鎌氏:もちろんです。お願いします。