1ドル=180円になっても新NISAを支持できるか、と問いたい
田内氏:22年に自民党の財政政策検討本部で、日本の財政破綻の可能性について議論が行われ、僕も呼ばれました。現在日銀審議委員をされている方が、当時エコノミストとして、「今、長期金利が低位安定しているのは日本国民の国債への『愛』があるからで、それがなくなって外国債を買うようになったら大変だ。だから早くプライマリーバランスを黒字化しないといけない」という発言をされていて、正直、びっくりしました。 日本国債への「愛」ですか……。 田内氏:日本の銀行が外国債を買うと円が足りなくなるわけではないんです。円を支払って外貨を購入するということは、取引の相手側は円を受け取って外貨を売却します。相手側の銀行口座に円が移動するだけなので、その銀行が円の運用先を考えます。円という通貨の中で一番信用力があるのは日本国債なので、結局のところ、日本国債は買われる。日本のように一国一通貨の国では、財政破綻するというのは考えにくいんです。それよりも気をつけないといけないのは通貨安の問題だ、とそこではお話ししました。財政破綻しなくても経済が破綻することはありえますから。 唐鎌氏:財政破綻の定義はやや抽象的で、欧州財務危機のときもギリシャは1回デフォルト、つまり破綻した、という話になっています。そのような混乱の最中で一番大変なことは、政策当局がコントロールできない為替であるケースがほとんどです。 ●「経常収支黒字」を額面通り受け取れない 唐鎌氏:実際、日本はこの2年半、為替で苦しみ続けました。23年には経常収支の黒字が極めて大きい21兆3810億円。史上最大の貿易赤字を抱え込んだ22年でも11兆4486億円の黒字です。ちなみに世界的に見れば、前者は世界第3位、後者は第9位の大きさです。日本は紛れもない経常黒字大国です。 「経常収支黒字国なのだから、円安はいずれ収束する」という論調もありましたが、結局そうはならなかった。何か構造的な問題があるのではないか、端的には「この黒字は円買いにつながっているのか?」と考えるのが普通です。 田内氏:唐鎌さんの著書にある、統計上の経常収支の黒字が、実際に「円を買って外貨を売る」という為替取引のキャッシュフローを伴っていないのではないか、という指摘はもっともです。 「仮面の黒字国」というのはうまい表現ですよね。 唐鎌氏:本を出してからというもの、「経常収支の黒字は額面通りに受け止められないのではないか」という考え方がかなり浸透してきたのではないかと感じています。キャッシュフローベースの経常収支については本の中でも計算方法を開示していますし、財務省の研究会でも、学会でも発表しています。しかし、まだまだブラッシュアップの余地はあると思っています。時間が経つにつれて、もっと精緻なキャッシュフローベースの経常収支の数字が今後使われるようになってくればいいと思っています。