ノーベル平和賞 坪井直さんに“見てほしかった” 核廃絶へ…オバマ氏との握手「謝罪は一切いりません」
■「エノラ・ゲイ」復元展示 あらわにした怒り
坪井さんが、怒りをあらわにした出来事がありました。それは2003年、広島に原爆を投下した爆撃機「エノラ・ゲイ」が復元され、アメリカ・スミソニアン航空宇宙博物館に展示されたときのこと。原爆の被害については一切触れられていませんでした。 坪井さん(当時78歳) 「大声をあげて叱り飛ばしたいよ。なんでそんなことをしたんだと」 「原爆の被害状況と、両面を展示して、初めて歴史の真実が明らかになるんですよ」 その一方で、坪井さんの身体も、悲鳴をあげていました。大腸がん、前立腺がん、狭心症…。生涯、検査と治療は欠かせませんでした。時には、「もうそろそろ、逝くべきでしょうね」と笑いながら話すこともありました。
■前に進むため「謝罪は一切いりません」
そして訪れた、2016年5月の歴史的瞬間。オバマ大統領(当時)が、現職のアメリカ大統領として初めて広島を訪問し、被爆者らが見守るなか、“核なき世界”を追求するというスピーチをしたのです。 オバマ大統領(当時) 「私たちには歴史を直視し、こうした苦しみを二度と繰り返さないために、何をしなければならないかを自問する共通の責任がある」 スピーチを聞くその最前列には、坪井さんの姿がありました。かつて「米国を恨む思い、憎しみ」を抱えていた坪井さんでしたが、演説の後、歩み寄ってきたオバマ大統領と握手を交わしました。 坪井さん 「はじめに言いますが、謝罪は一切いりません(と言った)。とにかくみんなが仲良くして、平和を作らにゃいかん」 「あの大きな国を統率しとる大統領が、わざわざ来て耳を一応貸したんだから、まず一歩としては私は評価したい」 坪井さんは、憎しみを胸に秘め、前に進む道を選んだのです。 ◇ 2018年6月、93歳になった坪井さんは、取材に対して、「核兵器が無くなったらそれでいいのか。それだけで終わっちゃいかん」と話しました。 取材が終わると、カメラの前で「今日はいい日だった」とこぼした坪井さん。戦い続けた96年の生涯で、私たちが最後に聞いた言葉でした。