ビルツとムシアラ ドイツサッカーを担うふたりの天才プレーメーカーは共存可能なのか
【ドイツサッカーのこの先10年は安泰か否か】 2024年の欧州選手権、ドイツはビルツとムシアラを併用した。さらにイルカイ・ギュンドアンも起用していた。ビルツ、ムシアラ、ギュンドアン、クロースのMF陣はドイツ史上最も技巧的な中盤と言える。 システムは4-2-3-1。ギュンドアンがトップ下、ビルツとムシアラは左右に分かれて2列目を形成していた。ビルツ、ムシアラのポジションはサイドハーフだが、ふたりとも中へ入ってハーフスペースでプレーするのを得意としている。 そのため、攻撃時はクロースが最終ラインに下りて両サイドバックを前に出して幅をとるのだが、ギュンドアン、ビルツ、ムシアラが集結する中央部は渋滞気味ではあった。中央のオーバーロードは今季のバルセロナが実践して結果を出している。しかし、ドイツの試みはそこまで機能していなかった。 事実上の決勝戦と言っていい準々決勝のスペイン戦では、ビルツを外してリロイ・サネの先発だった。ただ、それでうまくいったわけではなく、後半にビルツが登場してからのほうが明らかに核心をつく攻撃が増えていた。89分の同点弾もビルツだった。 しかし、同点にできたのは無理矢理とも言える総攻撃の成果である。トマス・ミュラーとニクラス・フュルクルクも投入して、前線5人にクロスを放り込み続けたおかげ。 延長後半の失点で敗れはしたが、ドイツはこの大会のベストチームのひとつだった。ただし、ビルツとムシアラにとっては不完全燃焼だったかもしれない。 ふたりの長所は、狭いスペースでパスを受けて前を向けること。そして決定的なプレーができること。ボールタッチのうまさ、身体操作の滑らかさはふたりの共通点だ。意表を突くタイミング、コースのパスを出せて、ドリブルでボックス(ペナルティーエリア)内へ突入することもできる。いまどき、このレベルのインサイドハーフを揃えられるのは特例だろう。 しかし、ドイツは点がほしくなると必ず力攻めに変化する。それで成果も出してきた。だが、それをするならビルツもムシアラもいらないのだ。 1970年代の黄金世代が去ったあと、西ドイツは急に武骨なスタイルに回帰していた。それでもある程度の結果は出せていたのだが、技術的に完全復活するのは2014年まで待たなければならなかったし、それ以前には深刻な落ち込みを経験していた。 ドイツサッカーは常に2つの顔を持つ。ビルツとムシアラがいれば、あと10年は安泰に思われる。ところが、ビルツ&ムシアラが実質的に存在感を発揮できない10年になる懸念も現時点ではまだ残されている気もする。 連載一覧>>
西部謙司●文 text by Nishibe Kenji