【経済学者・岩井克人氏に聞く】トランプ政権誕生と生成AIの衝撃――2025年、日本の針路は?(前編)
2025年1月20日にトランプ政権が再び始動する。日本は、世界は、この先どうなっていくのか? 新年の始まりに、日本を代表する経済学者・岩井克人氏のインタビューを掲載します。 ***
アメリカと中国のディストピアに呑み込まれてはいけない
――アメリカでは再びトランプ政権が誕生します。 大統領選が本格化する前、『文藝春秋』2024年6月号に、「2つのディストピア 米中に吞み込まれるな」というインタビュー記事を載せました。その中で私が述べたのは、アメリカと中国、それぞれの社会が発展する過程において、なぜ現在のようなディストピアとなったのか、ということです。そして、デフレという暗雲が消え去ろうとしている今こそ、日本には、資本主義の多様性を示すための「世界史的な使命」があると論じました。
アメリカと世界を理解するための2冊
――アメリカの現状をどうご覧になっていますか? アメリカおよび世界の状況を理解する上で重要な本が昨年、2冊刊行されました。 1冊は、7月にアメリカで刊行されてベストセラーになった『Autocracy, Inc.』です。著者はアン・アップルバウムという著名な女性ジャーナリストで、「Autocracy, Inc.」という言葉にはさまざまな解釈がありえますが、「強権主義連盟」といった意味です。 現在、世界ではロシア、中国、ハンガリー、北朝鮮、イラン、そしてベネズエラといった、一種の強権国家が台頭しているが、かつてのような資本主義vs.社会主義という構図ではない、と彼女は言います。 ロシアはプーチンの独裁であり、中国は社会主義から改革開放を経て監視社会に至った。イランは神権国家であり、ベネズエラは社会主義国家が腐敗して強権国家になった。つまり、それぞれの国は別々の道を歩んで強権主義にたどりついた。その意味ではイデオロギー的にはバラバラだが、強権主義的な支配を維持するため、反西洋文明、反米国覇権主義を一致点として、お互いに連携を取り合っている、というのです。実際、ウクライナ戦争において、ロシアにイランはドローンを供与し、北朝鮮は1万人以上を派兵し、中国は隠れて支援を行い、ハンガリーはNATO(北大西洋条約機構)の中でウクライナ支援を妨害しています。