3x3挑戦、プロ1年目の契約解除、トライアウトから金沢武士団加入…東野恒紀が歩む“大好きなバスケ”キャリア
2016年のBリーグ誕生から9年。B1、B2、B3の総チーム数は「45」から「55」まで増加したが、入れ替わりが激しいプロにおいてプレーできる選手は限られている。経験豊富なベテラン選手でも、将来性豊かな若手選手でも、結果を出さなければ生き残れないのがプロの世界だ。 ルーキーシーズン途中の2023年3月にベルテックス静岡と双方合意の契約解除。「チーム目標の『B2昇格、B3リーグ優勝』を達成するために、チームのために貢献できるように引き続き頑張っていきます」(静岡公式HPより引用)。選手登録がなくなったあとも練習生として静岡に残ると、スクールやイベントなどチーム活動に取り組み、その後、トライアウトを経て、金沢武士団で再びキャリアを歩み始めた選手がいる。10月20日に25歳の誕生日を迎えた東野恒紀だ。 彼のキャリアを振り返ると、横浜市立原中学校3年次にキャプテンとしてチームの全国大会初出場に貢献。厚木東高校では3年次にエースとしてチームをウインターカップベスト8に導き、自身は4試合で大会2位の18アシストを記録した。卒業後は関東1部リーグ所属の神奈川大学に進学。1年次から試合に絡むと、3年次に越谷アルファーズへ、4年次に静岡へ特別指定選手として加入した。契約解除は、特別指定としてのシーズンを終え、選手契約を結んだ2022-23シーズンの出来事だった。 「本当にバスケットボールが大好きだけど、僕には向いていないのかなとか、僕は何をするために静岡に来たんだろうとか、いろいろ考えることがありました。(プロ)1年目はもう本当にしんどくて、しんどくて。泣いていることがほとんどでしたね。プロはこんな世界なんだなと。バスケットボールを一生懸命プレーしても評価されないし、最終的には選手契約解除。ただ、そういった苦しさが今につながっていると思うこともあります。チームは7連敗ですけど、スタメンで試合に絡ませてもらっている自分にとっては成長できます。もしこれで試合に出られなくなったとしても腐ることは絶対にないし、それを糧にして頑張ろうと思えるので、今ではすごくいい経験だったと思っています」 10月17日、国立代々木競技場 第二体育館で行われたしながわシティバスケットボールクラブとのB3リーグ2024-25シーズン第4節第1戦に敗れた試合後、東野は当時の心境を振り返った。 プレーする機会を失ったあとは様々な手を使って次のチームを探したが、「静岡で試合に出ていないということで評価の対象外」(東野)。ただ、金沢のトライアウトを受けることになり、そこで評価を得たことで60人ほどの参加者から唯一の合格。「やっとスタートラインに立ったという感じでした」と、金沢の地でプロバスケットボール選手として再出発することになった。 品川との試合では、ある先輩との再会を果たした。越谷時代にともにプレーした落合知也だ。「プロとしての行動や責任を学んで、『俺らはお金をもらって、バスケットボールを仕事としているんだ』と。落合さんもバスケットボールが大好きという思いはもちろん、“仕事”という気持ちも強くて。プロフェッショナルだというプライドを教わりました」と明かした東野は、落合をきっかけに3x3にも挑戦。2021年12月にTOKYO DIMEでデビューを飾り、今もオフシーズンを活用して活動を続ける。 落合に当時のことを聞くと、「細かく言っていませんけど、たぶん見てくれていたんですかね。そのように感じてくれたのなら僕はうれしいです」。3x3のパイオニアは礼儀正しく、意欲的だという東野について期待を寄せた。 「今は同じ舞台に立ったのでライバルですが、彼のことは応援したいと思っています。(3x3に挑戦することで)オフシーズンがないのはキツいですけど、やっぱり人前に立つことが多くなるのは非常に大事です。どんどん出ていって、『こういう選手もいるんだ』と知ってもらうこと。自分自身も同じような経験がありますから。彼の活動は絶対にプラスです。彼のようなプロ選手がいることによって、バスケットボールがより盛り上がると思います。間違いなくもっとうまくなります」 東野はアグレッシブなドライブやディフェンスを持ち味とするポイントガード。3x3を経験することで「1対1の駆け引きがうまくなる」と感じており、「ヘルプの状況判断でも学ぶことがあります。3人制ではツーメンゲームが多く、2対2がすごくうまくなります。5人制は2対2で完結することがあれば、3人目、4人目、5人目を使うシーンも出てきます。まずはツーメンゲームで攻められないと、3人目、4人目、5人目を使えません。1対1、2対2がうまくなり、つながることは多いと思います」と、5人制に活かされる部分も多いようだ。 所属する金沢は2023-24シーズンの開幕をコーチ陣不在で迎え、1月には震災の影響で活動休止を余儀なくされた。結果的に全試合を消化できずB3最下位の6勝38敗。今シーズンはファイティングイーグルス名古屋のアソシエイトコーチなどを務めた松藤貴秋ヘッドコーチを招へいし、第3節では昨シーズンB2の新潟アルビレックスBBを相手に善戦を繰り広げたものの、品川との第2戦に敗れ、B3で唯一の開幕8連敗を喫した。 東野自身も品川との2試合を通じて無得点に終わり、初戦後には「ハーフタイムやタイムアウトの時に『ディフェンスから入ろう』と言っていましたけど、自分のところでやられてしまい、ファウルトラブルになってしまったり、3ポイントシュートを打っても入らなかったり。チームを鼓舞し続けているけど、何もできず、本当に不甲斐ない気持ちです」と反省の弁。苦難を経て、金沢で好機をつかんだ若武者が縦横無尽にコートを駆け回り、次節こそ今シーズン初白星をファンに届ける。 取材=酒井伸 (※取材は17日の試合後、ホームクラブの協力を得て実施)
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