【明日の金ロー】当時の世界情勢が作品の後半の展開に大きな影響を与えた「ハウルの動く城」
10日の金曜ロードショーはスタジオジブリ作品「ハウルの動く城」(2004年)が約2年ぶりに登場。枠を40分拡大し、ノーカットで放送される。23年の「君たちはどう生きるか」で主人公の父親の声優を務めた木村拓哉が、本作ではハウルの声を担当したことも公開当時は大きな話題となった。 主人公・ソフィーは18歳の少女。決して望んだ訳ではないが、それを運命と思い、実家の帽子店を切り盛りしていた。ある日、街に出たソフィーは兵士に絡まれた際に青年に助けられる。不思議な雰囲気をまとうその青年は、空を飛ぶ魔法の力を持っていた。 その夜、ソフィーは店を訪ねて来た「荒地の魔女」に呪いをかけられ、90歳のおばあちゃんに姿を変えられてしまう。実家にいられなくなったソフィーは街のはずれにある荒地を目指し、山を登っていくと「ハウルの動く城」と呼ばれる奇妙な”建物”と出会う。そこには、魔法使いの青年・ハウルとその仲間たちが暮らしていた―。 本作が面白いのは、何といっても「動く城」という言葉から伝わって来るイメージだろう。大きくデンと構えているはずの「城」が「動く」という、一見結びつきそうにない2つが一緒になっているところ。ちなみに、1986年に発表された原作の英小説も「Howl’s Moving Castle」という”そのまま”のタイトルだった。 宮﨑駿監督も「城が動くのは面白い」と原作に興味を持ったという。さらに、「ヒロインが魔法をかけられて90歳のおばあちゃんになってしまう」ということも併せ、「この2つの要素があれば映画になる」との思いが、本作の製作のきっかけとなった。 その意味においては、基本的なストーリーは原作に則しているのだが、最も異なる点が「戦争」に関する部分。記者は原作を読んでおらず浅学で恐縮なのだが、原作には戦争がほとんど描かれていないという。一方、本作ではソフィーらが暮らす国は隣国と戦争中。ハウルは王様に仕える魔法使い・サリマンを通じて、国に協力するよう求められるのを拒んでいる―ということになっている。その中で、特に後半では戦闘シーンが多く描かれている。 これは、世界情勢も大きく影響をしていたと思われる。本作は01年に製作が明らかにされたのだが、同年9月に米中枢同時テロが発生。世界にはきな臭い空気が漂い始めた。さらに、03年3月には米アカデミー賞で「千と千尋の神隠し」が長編アニメーション賞を受賞したのだが、宮﨑監督は授賞式を欠席。授賞式の3日前にイラク戦争が勃発しており、「いま世界は大変不幸な事態を迎えているので、受賞を素直に喜べないのが悲しい」とコメントしていた。 当時は本作の製作の真っ最中。宮﨑監督がどのような思いを持っていたのかを想像しながら観賞すると、新たな面が見えてくるかもしれない。(高柳 哲人)
報知新聞社