文献と一致すると大感激! 考古史料によって解き明かされた古代日本の謎
中国の『魏志倭人伝』やわが国の『古事記・日本書紀』などの記述と、考古学の発掘調査結果が一致すると、それが事実であったという信ぴょう性が一気に高まりますし感激します。これまでにどんな一致が見られたのでしょう? ■貴重な文献と考古史料の整合性で見える古代史 わが国にはほぼすべての時代の考古史料が途切れることなく存在します。ただ文献資料は途切れることがあったり、その時代の文献が無かったりしますので、稀に文献と考古史料が一致すると、大きな感激と驚きを感じます。 古代の史実を証明する考古史料は数多く存在しますが、その裏付けとなる文字史料は極めて少ないといわざるを得ません。 現代のコンビニエンスストア数の3倍はあるといわれる古墳から、墓誌が出ることはまずありません。 つまり誰の墓なのかがほとんどの場合さっぱりわからなくなっているのです。残念なことに天皇陵とされている古墳も、被葬者の学問的裏付けはほとんどの場合ありません。 ただ、明治13年に京都の高山寺で発見された『阿不幾乃山陵記(おうぎのさんりょうき)』の研究から、奈良県明日香村の野口の王墓が、「天武持統合葬陵」であることが判明し、確定しています。 『日本書記』の記述と、鎌倉時代の盗掘犯逮捕時の供述調書と実況見分の記録がまったく一致していたのです。 そこには金銅製扉の玄門を入ると約7.7mの石室に金銅製の棺台に載せられた、おそらく夾紵棺(きょうちょかん)があり、その手前には金銅製の箱に収められた銀製の骨蔵器が安置されていたとあります。鎌倉時代の文暦2年(1235)、そこに盗掘者が入り込み金銅製の箱を銀の骨蔵器ごと盗み出し、中をみたら灰が詰まっていたので、そばの溝に中身を捨てたと証言しています。 その内部の記述がまさに『日本書紀』に記録されている天武天皇と持統天皇の夫妻合葬の様子と一致したのです。先に崩御した天武天皇が古墳に埋葬されて、そのあとを継いで即位した皇后の持統天皇は、わが国で初めて火葬された天皇です。 持統女帝の亡骸は遺言によって荼毘に付され、骨と灰を立派な骨蔵器に収めて合葬されました。つまり歴女に人気の持統天皇のご遺骨は、盗掘者によって溝に捨てられたという残念な話でもあります。しかしこの古文書の発見で天武持統合葬陵が明日香村の「野口の王墓=檜隈大内陵(ひのくまのおおうちりょう)」だと判明したのです。天皇陵で被葬者がはっきりしている数少ない実例です。 ほかに「ワカタケル大王」と記述のある雄略天皇の和名が、埼玉県の稲荷山古墳出土の鉄剣や熊本県の江田船山古墳出土の鉄剣に記されていました。これも文字史料が雄略天皇の実在を証明することになりますね。 中国の『三国志』のなかにある『魏志倭人伝』は弥生時代末期の倭国の様子をリポートしている貴重な歴史書です。邪馬台国の様子が書かれていて、その姿はまさに九州吉野ヶ里遺跡の様子とよく一致しています。 整備されている吉野ヶ里歴史公園には、発掘調査の結果から得られた情報をもとにして上物(うわもの=建物)が再現されています。 遺跡からは柱を立てた跡や溝跡、炉跡やゴミ捨て場、そして墓が出てきます。その柱穴の大きさから柱の直径を探り、柱の間隔で建物の大きさを推定します。そして検討を重ねた結論に従って建物を再現します。 ですから推定復元建物は、それほど大きな違いが無い物と思って差し支えありません。すると二階建ての大きな建物や、遠くを見渡すように高く造られた楼観(ろうかん)が現れました。 『魏志倭人伝』にはこのようにリポートされています。 「宮室樓觀城柵嚴設常有人持兵守衛」 =「卑弥呼のいる宮殿や高楼は城柵で厳重に囲まれ、常に武器を持った人が守衛している。」 今の吉野ケ里歴史公園にはこの記述をそっくり再現したような風景が広がります。ただし、「だから邪馬台国は吉野ヶ里にあったんだ!」と思うのは軽率です。もっと多岐にわたる研究と検討が必要です。しかしながら弥生時代の集落国家の最もスタンダードな姿を示しているのは間違いありません。 日本列島の時代を徐々に遡ってみましたが、古代の文献はこの辺りが限界です。もちろん時代を下ればどんどん文献資料と考古史料の一致が見られるようになりますし、飛鳥時代や奈良時代以降は現在も継続する寺院などがありますので、訪ねてみるととても興味深い発見をすることでしょう。 近年の発見では1979年1月に奈良市此瀬町(このせちょう)の茶畑で偶然発見された円墳から出土した「銅板墓誌」でしょうか。そこに書かれた文字から『古事記』の編纂者である太安萬呂(おおのやすまろ)の墓であることが判明します。銅板墓誌の記述は『続日本紀』の太安萬呂の記録と一致しています。これについてはまた別稿でご紹介しましょう。 季節も良くなってきました。夏は暑すぎて散策に向きませんが、今のうちにまず資料を読んで、そして歴史の現場を訪ねてください。きっと歴史ロマンのファンになるでしょう!(笑)
柏木 宏之