令和でもその「厳しさ」は通用した…38年ぶり阪神日本一を成し遂げた名将・岡田彰布「マネジメント」の極意
矢野阪神には怖さが足りなかった
長谷川:前任の矢野燿大監督が緩すぎたと思うんだよね。キャンプ初日に胴上げする“予祝”とかさ、ホームランを打ったあとにメダルをかけていたでしょ? 村瀬:すぐ廃止しましたね、岡田さん(笑)。矢野阪神は戦力も十分あるのにどこか怖くないという印象があった。だからこそ「岡田監督」という、厳しさを持つ“劇薬”が必要だったのかなと。で、ちょっとやったらすぐ日本一じゃないですか。まさに名将。監督でこんなに変わるのかというのを、まざまざと見せつけられた気がします。 長谷川:去年、日本一になった岡田さんの胴上げを見たときに、やっぱり胴上げはキャンプであらかじめやるもんじゃないなと思ったよ(笑) 村瀬:阪神の歴史で言えば、1998年のエイプリルフールに吉田義男監督が「ウソの優勝祝賀会見」をしたことに近い。これは暗黒史のひとつですよ。 ちなみに、矢野さんとドラゴンズの井上一樹新監督は仲が良いんです。この井上さんは、先日の秋季キャンプ練習で「誰とは言わないが、最終戦で最下位が決まった瞬間に笑っているヤツがいた」と、早速選手たちにクギを刺していましたけどね(笑) 長谷川:なんだか『スクール・ウォーズ』とか、昭和の大映ドラマのような感じだね。
「昭和型」も通用すると証明した岡田阪神と阿部巨人
村瀬:よく現場で「最近の若い選手はなかなか難しい。怒ったら拗ねちゃう」という話は聞くんですけれども。今もね、昭和型の野球が通用するんじゃないかと、みんな心のどこかで感じていると思うんですよ。「昭和世代の逆襲」じゃないけれども、やり方さえ間違えなければ昭和型も十分有用だよっていうことを、むしろ井上さんには証明していただきたい。岡田さんがそれを証明してくれたからね。“昭和の名将”のアップデートの好例だったんじゃないでしょうか。 巨人の阿部慎之助監督も、「アップデート昭和型」だと思うんですよね。今年のキャンプの時に、「『不適切にもほどがある』が面白くてしょうがない!」とコメントを出していましたから(笑) 長谷川:昭和型にノスタルジーがあるんだね。 村瀬:阿部さんが就任後に、自身の方針や信条を記した「クレドカード」というのを関係者全員に配ったんですよ。それがなんだか、昔の経営者っぽいなあと思って(笑) でも、そのなかで巨人はチーム一体となって同じ目標に向かい、しっかりとリーグ優勝を果たすことができた。これも一つの正しい昭和型のあり方だと思います。 長谷川:アップデートしたかどうかは結果論なんだろうね。もちろん100%旧態依然じゃダメですけど、ずっと昔から変わらない、普遍的な指導術やマネジメント術っていうのもあるでしょうから。 村瀬:大洋の監督をしていた頃の関根潤三さんのサイン色紙に、「自他平等」という座右の銘が記してあるんですよ。「自分も他人も平等」という意味ですね。ただ、その時代に大洋に在籍していた人が話していたのが、自他平等を掲げる監督は絶対に勝つことはできないんだと……。「監督っていうのは必ず贔屓をつくらなきゃいけない。一緒に心中する選手を見つけて、それと共に戦って、ダメだったら辞める。それだけでいいんだ」と。 たしかに、横浜で優勝した監督って、三原脩さんや権藤博さんのように「自他平等」をやらなかった人なんです。岡田さんもそうですけど、監督はすべての責任を引き受ける心構えや、自我を強く打ち出していく必要があるということなのかと実感しました。