２０１２年の日本ＧＰで３位表彰台に立った小林可夢偉

【ベテラン記者コラム】 トヨタが自動車レース最高峰のF1シリーズに参戦している米国のレーシングチーム、ハースと車両開発などの分野で業務提携すると発表した。F1へ参画するのは2009年以来、15年ぶり。契約期間は複数年でドライバーや技術者らをハースのテスト走行に派遣し、最高峰のレース現場での経験を積ませる。またマシンの空力開発にも参加する。 トヨタは02年にF1に参戦したが、リーマン・ショックによる経営不振により、1度も優勝しないまま09年シーズン終了後に撤退した。豊田章男会長は「決断は間違っていなかったと今も思っているが、日本の若者が一番速い車に乗る道を閉ざしたことを心のどこかで悔やんでいた。トヨタのドライバーが世界一速い車に乗る夢を実現していきたい」と力説した。 ハースはF1に16年から参戦する新興チームで、米ノースカロライナ州カナポリスに拠点を置く。フェラーリからパワーユニット（PU）の供給を受け、製造者部門の年間最高順位は18年の5位。今年からチーム代表を務めている日本人の小松礼雄氏は、「マンパワーなど、うちにないものを得られる。夢を与える戦いができるチームをつくっていく」と歓迎した。第19戦の米国グランプリ（GP）からは、トヨタのモータースポーツブランド「GAZOO　Racing（ガズーレーシング）」のロゴがハースのマシンに掲出された。 トヨタはルマン24時間に代表される世界耐久選手権（WEC）、世界ラリー選手権（WRC）にはコンストラクター（製造者）として参戦する一方、撤退後はF1と距離を置いていた。潮目が変わったのが昨季だった。WECに参戦している平川亮が名門マクラーレンの控えドライバーとして起用されることが決定。今季はF1の下部レース・F2に昨季、日本のスーパーフォーミュラで総合優勝を果たした宮田莉朋がフル参戦した。 今後はF1レースでレギュラーシートを獲得できるような若手の育成も目指す。トヨタが育てたF1ドライバーでもある小林可夢偉はザウバーに在籍していた12年の日本GPで3位表彰台に立つなど活躍したが、14年を最後に正ドライバーの座を失った。もしトヨタが継続参戦していれば、日本人初優勝も夢ではなかったかもしれない。 前回のF1参戦とは異なり、既存チームとの業務提携を選んだことに、豊田会長は「まずはドライバーや技術者に、F1への夢や希望を与えることが第一歩と考えた」と強調した。26年にはホンダもアストン・マーチンにPUを供給する形でF1に復帰する。日本最大の自動車メーカーが、また見ぬF1の頂点を再び目指すのか、注目していきたい。