ビールの主役ホップの健康効果が脚光、血糖値やがん抑制などに高まる期待、研究続々
細胞や動物での研究結果が大半、だが幅広い病気の予防や治療に大きな可能性
毎年、オクトーバーフェストなどの秋の祭事が盛り上がる時期には、ビールが脚光を浴びる。近年、この飲料には科学者からの注目も集まっている。なぜなら、ビールの原料のひとつであるホップには、健康を促すさまざまな性質があることがわかってきたからだ。 ギャラリー:炎症を抑える食べ物とは、病気の進行やがんの治療にも影響 写真6点 ビールの健康効果では「ホップこそが主役です」と、米カリフォルニア大学デービス校のビール醸造科学教授グレン・フォックス氏は言う。実験室内での数多くの研究や、少人数ながらヒトを対象にした小規模研究からは、ホップに含まれる物質には抗菌、抗腫瘍、抗炎症、血糖値の調整といった幅広い特長があることがわかっており、専門家らは、この植物が心血管疾患、糖尿病、胃腸障害、さらにはがんに対する効能を持つ可能性を探っている。 ホップ(Humulus lupulus、アサ科)が持つ有益な性質の大半は、雌株の毬花(まりばな)に豊富に含まれる抗酸化物質に由来する。毬花は、ビールの製造に使われる部位だ。抗酸化物質は炎症を抑えたり、細胞を損傷から保護したりする働きを持ち、ホップの14%を占めている。 ホップに含まれる有望な抗酸化物質である苦味酸(くみさん、苦み成分)とポリフェノールはまた、ビールの風味や香りのもとにもなっている。研究者らが特に注目しているのは「キサントフモール」と呼ばれるポリフェノールで、これはホップだけに含まれる強力な抗酸化物質だ。 「適度にビールをたしなむ人たちは、自分は健康にいいことをしていると自負していいでしょう」とフォックス氏は言う。「ノンアルコールビールは健康飲料とみなされるべきだと私は考えています」 ただし、知っておいてほしいのは、多くのビールに含まれるキサントフモールはごく微量であること、また、心臓病やがん、肝臓障害、免疫機能不全といったアルコールのさまざまな健康リスクを無視してはならないということだ。
ホップとビールの長い歴史
ビール造りは農業とともに始まった。およそ1万2000年前、人間は狩猟採集の移動生活から農耕社会へと移行し、地域に応じて、小麦、ソルガム、大麦、トウモロコシなどの、ビールのもととなる穀物の栽培を始めた。 人々はごく早い時期から、穀物が雨に濡れると、残された液体に変化が起こることに気づいていた。「当時の人々は、野生の酵母が液体に定着して発酵プロセスを引き起こし、糖分をアルコールに変えているとは理解していませんでした」とフォックス氏は言う。しかし彼らにも、「これを飲むと楽しい気分になる」ことだけはわかっていた。 発酵を制御する方法が人類によって解明されると、ビールはたちまち世界で最も人気の高い飲料のひとつとなった。それでも、穀物、酵母、水だけでは風味や香りが乏しいうえ、飲料が腐らないようにする方法も必要だった。 この問題に対処するため、各地で多種多様な植物素材がビールに加えられるようになった。こうした素材のことをまとめて「グルート」と呼ぶ。1000年ほど前のローマ帝国では、食品の腐敗を遅らせるためにすでにホップが使われており、主要なグルートとしても利用していた。 煮沸のときに放出される酸に由来するホップの苦味は、穀物の甘みと相性がよく、ホップ特有の色と、花や果実のような香りも魅力的だった。こうした利点から、ホップはヨーロッパ、そしてのちには米国でも定番のグルートとなった。 「ビールのおいしさのすべてはホップから生まれます」と、ルーマニア、カロル・ダビラ医科薬科大学に所属する医師・研究者のコリーナ・アウレリア・ズグラブ氏は言う。氏は、ホップの抗酸化物質に関する研究をまとめたレビュー論文で、この植物は幅広い病気の予防や治療において大きな可能性を持つと結論づけている。