ビールの主役ホップの健康効果が脚光、血糖値やがん抑制などに高まる期待、研究続々
大半が実験室での研究
ホップとその成分に関する研究は、今のところ、細胞やげっ歯類を対象に実験室で行われたものが大半だが、結果は概ね良好だ。特に、最も広く研究されている成分であるキサントフモールとホップの苦味酸については、良い結果が得られている。 ホップ由来の抗酸化物質の混合物を脂肪細胞に加えると、低密度リポタンパク質(LDL)、いわゆる「悪玉」コレステロールの酸化が防がれ、それによるダメージが抑えられる。 肥満のオスのラットにキサントフモールを餌と一緒に与えると血糖値が下がり、与える量が多いほどその効果は大きくなる。さらには、肥満のラットに高脂肪食とともにキサントフモールを与えれば、通常は見られるはずの不健康な血中中性脂肪や体重の増加が抑えられる。 キサントフモールはまた、肺がん、大腸がん、甲状腺がん、卵巣がんなどのがん細胞にも影響を与えることがわかっている。キサントフモールがあると、がん細胞は自滅したり、複製や転移を行わなくなったりする。 「この成分は、がんの進行におけるさまざまな段階に介入することがわかっています」とズグラブ氏は言う。 こうした結果がヒトにも当てはまるかどうかはまだわかっていない。それでも、初期研究で提示されていたある懸念は、ヒトでは問題にならないことが判明している。その懸念とは、口から摂取されたキサントフモールは胃を通過しても残るのか、というものだ。その後の研究により、キサントフモールのおよそ3分の1が血液中に取り込まれることが確認されている。 「どうやら、キサントフモールは非常によく吸収されるようです」と、米オレゴン州立大学の薬学研究者ヤン・フレデリック・スティーブンズ氏は述べている。
小規模研究が示す期待できる効果
ヒトを対象にこれまでに実施された少数の研究により、ホップに含まれる物質への関心は高まっている。 日本で行われた研究では、約90人の糖尿病予備軍の人々に、ホップの苦味酸のサプリメントかプラセボ(偽薬)のどちらかを毎日3カ月間摂取してもらったところ、ホップのグループでは空腹時血糖値とヘモグロビンA1c(血糖値の長期的な指標)が低下した一方、プラセボのグループでは変化が見られなかった。 また、キサントフモールに関しては、ほかの治療法を助ける可能性も示唆されている。 新型コロナウイルス感染症が流行している最中、ある研究では、急性呼吸不全で入院した患者50人に対し、通常の治療に加えて、高用量のキサントフモールエキス(体重1キロあたり1.5ミリグラムを1日3回)またはプラセボを投与した。1週間後、サプリメントを投与された患者は人工呼吸器を装着している時間が短く、経過も比較的良好だった。 キサントフモールに関するもうひとつの興味深い研究分野は、クローン病を含む炎症性腸疾患だ。この物質は尿によって体外に排出されるのではなく、消化管内で胆汁と混ざり合って糞便と一緒に排出される。 「胆汁を介して再循環されることから、キサントフモールが腸で直接作用する可能性があるという仮説が生まれました」と、米国立自然療法医科大学の主任研究員ライアン・ブラッドリー氏は言う。 この仮説はマウスを対象とした数多くの研究によって裏付けられており、ブラッドリー氏とスティーブンス氏は、そろそろヒトを対象とした研究を行うべきだと判断した。 両氏が行った予備研究では、8週間にわたって医薬品グレードのキサントフモールを高用量投与(1日24ミリグラム)しても、ヒトにとって安全だと示された。その後、研究チームはクローン病患者20人を対象にこの薬の試験を行っており、現在、結果の分析を進めている。 今後数年のうちに、さまざまな病気を対象に、ホップの成分のさらなる研究が行われることが期待されている。ひとつ懸念されるのは、十分な供給量が確保できるかどうかだ。「米国のビール業界では、毎年栽培されるホップをすべてビールに使用しており、余剰分はほとんどありません」とフォックス氏は言う。