アウディF1計画に不安なし。本社から独立したプロジェクトで”F1向け”スピードを確保……かつての巨人の轍は踏まない?
■巨人トヨタが苦しんだ道
前述の通り、アウディは世界最大の自動車メーカーグループのひとつであるフォルクスワーゲン・グループの傘下である。 このフォルクスワーゲン・グループは、独自の手法で成長を遂げてきた企業であり、2023年の販売台数では、世界第2位を誇っている。ただその大企業の手法でF1を戦おうとすると、落とし穴にハマってしまうかもしれない。 2023年の自動車販売数の世界第一位はトヨタ自動車のグループである。このトヨタは、2002年からF1に参戦し、2009年までで撤退。この間、F1史上最大とも言える予算を投じたがそれが実を結ぶことはなく、結局1勝も挙げられぬままF1から去ることになった。 トヨタは、企業組織としてF1チームを結成しようとした。しかしそれが必然的に官僚組織のような動きとなり、遅延に繋がってしまった。F1では、迅速な判断と機敏な反応が求められるが、そういう組織構造を採ったことで、動きが緩慢になってしまったとされる。 ただアウディとしては、F1に参入するにあたって、そういう落とし穴は十分に認識しているようだ。 「我々はこのF1プロジェクトを、まったく独立したモノとして扱っている」 アウディのゲルノット・ドルナーCEOはそう語った。 「新たな体制では、F1プロジェクトを迅速かつ企業のプロセスから独立させるように改善したのだ」 「このプロジェクトを、企業のプロセスから切り離す必要があることは十分に認識している。マーケティングやデザイン、そしてスポンサーシップに関しては、本社とリンクする必要がある。しかしそれ以外の決定は(現ザウバーの本拠地である)ヒンウィルで下せるようにしなければいけない。それが、我々の優先事項だ」 2024年のザウバーは、シーズン終盤のカタールGPでようやく入賞。この1回のみの入賞に終わり、コンストラクターズランキングでは圧倒的な最下位であった。プロジェクトを率いるビノットは、これは今までのプロジェクトの進め方が影響したと認める。 「アウディがチームの株式を取得し、将来的に完全な所有者になるという計画があった時、社内ではいくつかの計画が立てられ、いくつかの戦略計画が議論され、策定された。しかし、これらはまだ実行に移されてはいない」 そうビノットは語る。 「だからザウバーはしばらくの間、宙ぶらりんの状態だったのだ。そして、アウディとしての参戦がスタートする2026年に向けた準備を整えるため、チーム内の焦点とエネルギーの一部がそこに注がれた。その結果、2024年と2025年に向けた開発にかけるエネルギーが、幾分削がれたのだ」 ビノットは、アウディがF1に挑む上での課題の大きさを認識しているものの、いずれ勝てるのは間違いないと自信を持って言う。 「これは大きな山を登るというレベルではない。エベレストに登るようなものだ。それには数年かかるだろう。我々の目標は、10年後までにチャンピオンを争えるようになることだ」 「私は長年フェラーリにいた。ザウバーには、エンジンとギヤボックスを供給していたから、このチームのことは少し知っていた。何が期待できるのかは、なんとなく分かっていたんだ」 「しかしここに実際にやってきて詳細を調べ始めると、フェラーリのひとりとして知っていたこととは大きく違うことに気付いた」 「確かに、上位との差や違いは大きい。順位表を見ればその差が大きいのが分かるが、それはチームの規模や人数、考え方、ツール、設備などが違うせいだ。小さなチームと大きなチームを比較しているだけだ」 「確かに我々は、今の課題が何であるか、そしてトップに立つためにどれだけの努力が必要なのかを認識している。通常、勝利を争うトップチームの仲間入りをするには、何年もかかる。我々も、その山を登っていく必要があるんだ」 「当面の課題は、基盤を作り文化を作り、そして思考方法を整え、同時に素晴らしいマシンを作るのに必要な全てのツールを整えることだ」